ZOZOは、ファッションEC「ZOZOTOWN」をはじめ、ファッションコーディネートアプリ「WEAR」などの各種サービスの企画・開発・運営や、「ZOZOSUIT」「ZOZOMAT」「ZOZOGLASS」などの計測テクノロジーの開発・活用などアパレル事業を中心に数多くの事業を展開している。
「世界中をカッコよく、世界中に笑顔を。」を企業理念に掲げるZOZOは、よりパーソナライズされた顧客の購入体験を実現するため、分散型RESTful検索/分析エンジン「Elasticsearch」を主力事業の「ZOZOTOWN」に導入している。
今回、ZOZOの技術本部 検索基盤部の池田祐一氏に、「Elasticsearch」の導入により、ZOZOが抱えていた課題をいかに解決したのか、また今後どんな未来を描いているのかについて聞いた。
キーワードは「パーソナライズ」 すべての人が満足する購入体験のために
Elasticsearchは、データを一元的に格納することで、超高速検索や関連性の細かな調整、高精度の分析を手軽に実行可能にするプロダクトだ。
「ZOZOTOWNでは、以前からキーワード検索時にはRDB(リレーショナルデータベース:データを複数の表として管理し、表と表の関係を定義することで、複雑なデータの関連性を扱えるようにしたデータベース管理方式)と併用する形でElasticsearchを使用していました。しかし、2019年3月に一部向けに導入を決めてから、1年後の2020年4月には、これまでRDBで行っていたIDによる索引検索も含め、すべての検索を段階的にElasticsearchへ置き換えました」(池田氏)
ZOZOTOWNではElasticsearchをキーワード検索時の検索エンジンとしてRDBと併用していたがそれを廃止し、完全にElasticsearchのみで検索を行うことによって、今まで以上にElasticsearchの機能を活用しながら、検索システムの改善がしやすい環境となったという。
また、この完全移行には、今回の取材でも多く挙がっていた「パーソナライズ」という言葉も影響していたという。
「これまでZOZOTOWNでは、全ユーザーの閲覧数や売上金額などを基にスコアを算出した『人気順』という表示順を提供していました。『人気順』に用いているスコアは商品にひもづいているため、年代や性別、個人の趣味嗜好などは関係なく、全ての利用者に対して同じ表示を行っていました。しかし、ファッションというものは本来、個人によって大きく好みが異なる分野であり、パーソナライズされた検索が必須となることは明らかでした。そこで、ユーザーのサイト内の行動ログ等を学習した機械学習モデルを作成し、Elasticsearchへ適用させることでパーソナライズ化を実現させることに成功したのです。それが今現在、提供している『あなたにおすすめ順』です」(池田氏)
この「検索のパーソナライズ化」を実施したことにより、ユーザーの趣味嗜好に関わる情報を商品の並び順に反映する仕組みが整ったため、「あなたにおすすめ順」の最適化が継続的に実施されているという。
日々変化する「理想の購買」を実現する
ZOZOTOWNにおいて、Elasticsearchを取り巻く検索システムの開発は検索基盤部が一手に担っており、Elasticsearchは商品検索以外にも活用の幅を広げているという。
「例えば、商品を検索するためだけでなく、検索をサポートするキーワードサジェスト機能等もElasticsearchを活用して実現しました。検索基盤部には、検索領域の研究を専門としているチームもあり、検索に関わる新しいアイデアの創出から、実現への取り組みが頻繁に行われているため、今後もElasticsearchの活用の幅はもっと広がっていくと思います」(池田氏)
このようにユーザーに寄り添い、「世界中をカッコよく、世界中に笑顔を。」の企業理念の通り、世界中でユーザーの理想のファッションを届けることを目指すZOZOだが、近年の動向をどう捉えているのだろうか。
「ZOZOTOWNに来てくれている方は増えていると感じています。外に出られない分、ECサイトを通じてファッションを楽しむ方が増えたことが要因だと考えられます。また近年、より『自分に似合う格好をしたい』というユーザーの方が多くなっているなど、日々変化するお客さまの『理想の購買』を形にすることが私たちの仕事だと思っています」(池田氏)
Elasticsearchの導入の際にも真っ先にキーワードとして挙がった「パーソナライズ化」に力を入れるZOZOだが、この取り組みはEC内にとどまらず実店舗にも広げている。それが、2022年12月にZOZO初のリアル店舗としてオープンした「似合うラボ」だ。
似合うラボとは、服を売らないリアル店舗で、ZOZO独自のAIである「niaulab AI by ZOZO」とプロのスタイリストの知見を掛け合わせた超パーソナルスタイリングサービスを無料で提供する施設となっている。
最後に池田氏に今後の展望を聞いた。
「ユーザーが商品を検索する際の体験をよくするという側面で見ると、検索基盤部が寄与出来るアイデアは多く残っているので、Elasticsearchもフルに活用しながら実現を検討しています。また、ZOZOとしてはその人に『似合う』ものを提供する、つまりよりパーソナライズされたシステムを提供していきたいと考えています。今はまだ『ファッションを“買う”ならZOZO』という言葉にとどまっていますが、今後は『ファッションの“こと”ならZOZO』というように、購入フェーズ以外のお客さまにもご利用いただける、そんな事業展開を目指していきたいです」(池田氏)