横浜市立大学(横市大)は6月1日、エネルギー効率の計測手法を電力に適用し、「確率フロンティア分析」(SFA)の手法をもとに産業部門を対象として地域別に電力消費効率を計測し、その改善可能性を分析した結果、国のエネルギー政策の変更が同効率を改善させたことが確認されたと発表した。

同成果は、横市大 国際商学部の大塚章弘准教授によるもの。詳細は、世界の公益事業政策に関する全般を扱う学術誌「Utilities Policy」に掲載された。

省エネ達成のための費用対効果の高い戦略を策定するためには、まず各セクターの省エネポテンシャルを計測した上で、さまざまなセクターや地域におけるエネルギー節約の可能性と、その効率性を高めるための最適戦略を検討することが有効だという。そこで大塚准教授は今回、日本の産業部門における電力消費の非効率性の水準とその決定要因を明らかにすることを目的として研究を進めたという。

電力消費の非効率性の分析は、電力需要データを基に、最も効率的な電力需要の水準を特定化できる分析ツールのSFAが用いられた。同ツールにより、どのような社会経済的特性が電力消費の効率に影響を与えるのかについて、洞察を得られるという。そして電力消費の効率に関する決定要因を特定化することで、政策担当者が、エネルギー効率を改善する方法を検討することが可能になる。多くの科学的知見を政策担当者に提供することは、エネルギー政策コスト全般の削減に直結するとしている。

こうした問題意識に基づいた今回の研究では、日本の産業部門の電力消費の効率性について、1990年から2015年の地域別部門別パネルデータを活用した実証分析が実施された。その結果、以下の5点が明らかになったとする。

  1. 気候条件が電力消費の非効率性に負の影響を与える
  2. 事業所の規模が電力消費の非効率性に正の影響を与える
  3. 地域の工場比率が電力消費の非効率性に正の影響を与える
  4. 事業所の密度が電力消費の非効率性に負の影響を与える
  5. 地域の市場競争が電力消費の非効率性に負の影響を与える

気候条件が電力消費の非効率性に負の影響を与える

気候が厳しい地域では冷暖房需要が多い。そのような地域では空調の電力消費コストが高くなり、企業はコスト節約的な行動を取る誘因を持つ。つまり、気候が厳しい地域では、電力消費の非効率は低くなり電力使用の無駄が少なくなるとする。

事業所の規模が電力消費の非効率性に正の影響を与える

従業員が多い事業所では、広い作業空間や電子デバイス機器が必要となる。特に、オフィスルームの増加は電力の共有利用を減少させるので、電力使用に無駄が発生しやすい可能性があるという。

地域の工場比率が電力消費の非効率性に正の影響を与える

日本の工場は、オフィスと比較すると電化が相対的に進展していないとする。電化が進んでいない工場が地域に多く立地している場合、その地域ではエネルギー消費に無駄が生じている可能性が高いことになる。

事業所の密度が電力消費の非効率性に負の影響を与える

企業集積は外部経済を通じて各事業所の生産性を上昇させる。この生産性上昇がエネルギー効率の上昇に結び付くことを示すことは、すでに多くの先行研究で判明しているという。

地域の市場競争が電力消費の非効率性に負の影響を与える

地域企業が競争市場に直面していると、コスト節約的な行動を取る誘因を持つ。企業が電力を効率的に使用するようになる結果、地域全体の電力使用の無駄が少なくなるとする。

以上5点を踏まえ、電力管内地域を対象とした電力消費効率の水準が年代別に計測された。電力使用効率が高い地域は東京・関西・中国・四国・九州・沖縄だ。これらの地域は電力消費の効率が高いため、節電可能性はあまり大きくない。逆に、北海道・東北・北陸の値は電力消費の効率が低く、これらの地域では節電ポテンシャルが大きいことがわかったとしている。

  • 産業部門における電力管内地域別の電力消費効率の水準。値が1に近いほど、電力使用効率が高いことを示す。

    産業部門における電力管内地域別の電力消費効率の水準。値が1に近いほど、電力使用効率が高いことを示す。(出所:横市大Webサイト)

さらに今回の研究では、東日本大震災に伴うエネルギー政策の変更が電力需要の効率性に影響を与えたかどうかも分析された。すると、政策の変更が電力消費効率を改善させたことが判明したという。震災を契機として日本の原子力発電の大半が稼働を停止し、その結果、電気料金が高騰。さらにエネルギー基本計画の変更によって、電力の主力電源を再生可能エネルギーとする方向性が定まったため、今後も電気料金の上昇が継続する可能性が高いことが予想されるという。今回の研究によれば、こうした国のエネルギー政策の変更は企業のコスト意識を高め、電力使用の無駄を少なくする可能性があることが推察されるとする。

今回の研究成果は、エネルギー効率向上を目的とした政策の費用対効果を高めるために利用することが可能だ。特に、電力消費の効率を高めるためには、いかに企業のコスト意識を刺激するような外部環境を地方政府が整えるか、ということが重要な示唆となるという。今回の研究で用いられた分析手法は産業部門以外のほかのセクターに対しても適用が可能であり、その意味で、ほかのセクターの電力消費の効率を評価することもできるとしている。