ダイヤモンドエレクトリックホールディングス(ダイヤHD)は4月16日、グループ企業のダイヤゼブラ電機が、アンモニアのような難燃性の燃料を100%でも安定燃焼させることが可能で、エンジンに搭載可能なサイズの「超高エネルギー点火システム」のプロトタイプを完成させたことを発表した。
今回の技術に関しては、自動車技術会2023年春季大会 学術講演会(同年5月24日実施)において口頭発表済み。
近年、地球温暖化対策として、自動車業界では世界的に電動化が進められている。しかし、たとえば一部の国内自動車メーカーなどが懸念しているのが、バッテリー駆動の電気自動車のみの生産となってしまうと、現在のエンジンのような複雑な機器を作り上げるために長いこと機能してきた、自動車メーカーを頂点としたものづくりのピラミッド構造が崩壊してしまうという点だ(日本の雇用問題に大きく影響する)。そのため、既存のエンジンの製造に関するものづくりの構造を維持しつつ、環境問題もクリアするため、水素エンジン車の開発なども進められている。
しかし、水素エネルギー社会を実現するためには、常温・常圧では気体のために運搬や貯蔵が効率的でない水素をいかにガソリンや軽油などのように扱えるようにするかという問題もある。そのため、窒素原子1個と水素原子3個からなるアンモニアが、常圧では約-33℃以下という比較的室温に近い状態で液体を維持できるため、水素キャリアの1つとして期待されている。
それと同時にアンモニアは、燃焼させても二酸化炭素を排出しない(窒素酸化物は排出されてしまう)ことから、同物質そのものを燃料にするという研究も活発化している。現在は、火力発電のような大型の内燃機関を利用するシステムにおいて、同物質の混焼などから進められているが、もしガソリンや軽油のようにそのままクルマの燃料として利用できるのであれば理想的だろう。
しかし、アンモニアをガソリンや軽油の代替えとしてクルマの燃料にする場合、課題は同物質は非常に燃焼させるのが難しいという。クルマを走らせるには燃料を安定燃焼させることは必須だが、同物質でそれを実現するためには、既存技術だけでは難しく、その実現のための要素技術の1つとして、点火系での非常に高いエネルギーの火花放電が求められていた。
そうした中、ダイヤHDではグループ企業のダイヤモンド電機内に、2018年にA-Lab(燃焼ラボ)を設立(今回の添加システムを開発したダイヤゼブラ電機とはまた別のグループ企業)。点火コイルの放電エネルギーと電流特性を自由に変えられる特殊な点火装置を用いて、アンモニアや水素燃焼に関する基礎研究を進めてきた結果、2023年4月にアンモニアと水素の混合気を燃料とした既存レシプロエンジンでの実験において、より高いアンモニア混合率での安定燃焼を実現。アンモニア燃料100%での安定燃焼も実現したという(2023年5月の発表時点で、公表されている限りでは世界初の成果とした)。
その後、エンジンへの搭載も可能なサイズとして、「超高エネルギー点火システム」の開発がスタート。従来製品で6倍以上の点火エネルギーが出力可能な点火コイル技術と、1/1000秒レベルで複数回の火花放電を可能とする、個別点火を含むマルチ点火技術(多様な点火パターンを出力でき、エンジンの各運転領域において安定燃焼を実現できるとする)を組み合わせ、トータルで12倍以上の点火エネルギーが出力可能なシステムのプロトタイプが開発された。
今回の点火システムは、アンモニアのような難燃性の燃料の安定燃焼だけでなく、さまざまなリーンバーン(希薄燃焼)エンジンの性能向上にも寄与するという。ダイヤHDでは各エンジンメーカーへの提供を通じて、カーボンニュートラル社会に資する環境性能を備えたレシプロエンジンの実現に大きく貢献できる技術として確信しているとした。