アナログ・デバイセズ(ADI)は、2023年5月24日から26日までパシフィコ横浜にて開催されている「人とくるまのテクノロジー展2023」に初出展し、バッテリー監視技術や独自のインタフェース、インキャビン・エクスペリエンスを高めるソリューションなどをデモとともに展示および紹介を行っている。

  • アナログ・デバイセズの展示ブースの様子

    アナログ・デバイセズの展示ブースの様子

同社独自のテクノロジーを搭載したデモカー

出展ブースの真ん中で存在感を放つデモカー。その名も「ADIフューチャー・インキャビン」。

ADIフューチャー・インキャビンにはカメラが複数つけられており、高速で画像伝送ができる同社独自のインタフェース「GMSL」が搭載されている。実際にデジタルサイドミラーを模したカメラの前で体を動かすと、その映像が遅延なくドライバーの前に設置されたディスプレイにうつしだされた。ミラーはGMSLのユーザーであるアルプスアルパイン製のものが使われているという。また、今回展示されていた車載イーサネット伝送技術「E2B」や、車載オーディオ伝送バス「A2B」なども組み込まれている。

  • ADIフューチャー・インキャビンデモカーに乗車している様子

    ADIフューチャー・インキャビンデモカーに乗車している様子

  • デモカー下部には電池が積まれているデザインを採用

    デモカー下部には実際の電気自動車(EV)を模した電池が積まれているデザインが採用

さらに、センサーのインピーダンスの変化を元にドライバーの健康状態を読み取ったり、手のひらの汗から皮膚の抵抗値の変化を解析し、緊張度合いやストレスを図る仕組みもあるという。こうした機能を活用することで、不慮の事態で生じる交通事故を減少させることにつながることが期待される。

高性能かつサステナブルな独自のバッテリー監視IC「BMS」

基本的にEVに積まれている電池セルの電圧は3.6V〜4Vほどでスマートフォン(スマホ)などに入ってるリチウムイオン電池と大きく違いはない。しかし、それが数百個組み合わされることで、数百Vのバッテリシステムとなり、EVを走らせることを可能とさせる。ただし、電池は当然動いていると消費するため充電が必要となるが、電圧を揃えず一気に充電をかけると爆発するリスクが生じてしまうため、一番低い電圧にセルを揃える必要がある。一番低い電圧に合わせるためには、各電池セルの電圧を正確に読み取らなくてはならないが、その際活躍するのがBMS(バッテリ・マネジメント・システム)となる。

そして充電し終わった時、各バッテリーセルが均一に充電されているか確認するのもBMSの役割であり、いわば電池の状態をつかさどっているのがこのICということになる。

「EVは走行距離が短い」とよく言われるが、EVの走行距離の性能を決めるのもBMS。このBMSは多くの企業が提供しているが、そもそも正確に読み取ってない可能性があるという。例えば、精度が低いBMSを搭載すると、電圧が2.5Vである場合であっても2Vだと判断し、充電におけるエネルギーの無駄を生み出してしまうことになるのだそう。同社のBMSは読み取りの精度が高いため、走行距離をのばせるほか、サステナブルでもあると同社ブース担当者は語った。

  • バッテリマネジメントシステム(BMS)の展示

    バッテリマネジメントシステム(BMS)の展示

1本のケーブルで完結する画像伝送インタフェース「GMSL」

車には多くのカメラとモニターがついているのはご存じだろう。カメラで読み取った映像は、モニターに映し出す作業が必要なのだが、映像データはノイズに弱いといわれている。PCとモニターをつなぐHDMIなどのケーブルを少し動かしただけで映像が乱れた経験はないだろうか。そうした振動による映像の乱れを防ぐため、太めのケーブルが多く車に採用されている。

時代とともに技術が進歩し、自動車に搭載されるカメラは増える一方なほか、さまざまなデジタル技術も採用されるようになると、それに応じたケーブルも必要となるが、自動車メーカーはこれ以上ケーブルを増やしたくないのが本音なのだという。

そこで活躍するのが、同社の技術で作られた画像伝送インタフェースGMSLだ。実際、車には54本のケーブルが必要なのに対し、細いケーブル1本でデータを送ることができるのだそう。

  • 画像伝送インタフェースGMSLの展示

    画像伝送インタフェースGMSLの展示

大人数でも個別空間を生み出せる車載オーディオバス「A2B」

さらに近年、個々のユーザに応じたインキャビン・エクスペリエンスを高める技術も進んでいるが、同社も負けてはいない。

例えば、家族でドライブをした際、ドライバーが別にいる場合、お父さんは音楽を、お母さんはDVDを、子供はYouTubeをと、一人一人見たいものを視聴する場合、現在の技術で個別空間を作り出すには、イヤホンやヘッドホンを装着する必要があるだろう。しかし、同社のA2Bを活用すると装着するものがなくても個別空間を生み出すことができるのだという。

簡単な仕組みとしては、音は周波数で人に聞こえる形になるため、マイクでノイズを拾い、瞬時に分析して逆の周波数波形をだす。すると、ノイズとなる波と逆の波が打ち消しあい音が消え静かになるのだ。

この際、マイクやスピーカーを車に並べる必要があり、通常ならまた回線が増えるのだがADIは先ほど紹介した独自の技術を活用し、1本のケーブルのみでこの機能が使えるという。

「来年の1月にはADIフューチャー・インキャビンデモカーにも実装したい」と同社ブース担当者は意気込みをみせた。

  • A2Bをはじめとした最新テクノロジーの展示

    A2Bをはじめとした最新テクノロジーの展示