Slackは5月17日、オンラインとオフラインのハイブリッドによるイベント「Slack Sales Innovation 生産性を最大化し『勝ち抜く』営業組織へ」を開催した。本稿では、基調講演の内容をお伝えする。
冒頭、セールスフォース・ジャパン Slack事業統括本部 エンタープライズ第一営業本部 執行役員 本部長の小暮剛史氏が登壇。同氏は「米国はインフレが加速した結果、生産性は戦後以来最大の下落率となっっているため、前に進むための働き方が求められている。営業はデジタルファーストな時代となっており、4人中3人がリモートでの人的交流やデジタルセルフサービスを好む傾向がある一方で、営業プロセスのデジタル化に関してリモートのチームをマネージすることに対して困難だと感じている」と指摘した。
小暮氏は、新しい時代の働き方として「効率的・生産的」「情報と方向性の共有」「積極的な関わりと支援」の3つをポイントとして挙げている。
同氏は「Slackでは自動化により業務の迅速化やナレッジの共有・検索、全員がつながり参加することを支援するという。Slackは生産性を高める戦略性、そのための機能が充実している」と胸を張る。
いきなりDXは素人が何もせずにオリンピックに出場しようとするもの
続いて、ディップ 執行役員 商品開発本部長 兼 メディアプロデュース統括部長の進藤圭氏がSlackによる営業DXの事例を紹介した。同社は3年前にSlackの導入を開始しており、進藤氏は書籍の執筆や東京都や新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)など、さまざまな現場でDXを支援するとともに、そのノウハウを活かして自社でもDXに取り組んでいる。
まず、進藤氏は「いきなりDXを目指さない」「なしくずし的なデジタル化」「ITで会社の強みを伸ばすのがDX」という3つの観点からDXを進めるべきだと提言。DXにはアナログデータをデジタル化する「デジタイゼーション」、ビジネスプロセスをデジタル化する「デジタライゼーション」、そして新しい価値を創出する「デジタルトランスフォーメーション」と3つのステップで取り組む必要があるという。
最初は、いきなりDXを目指さないからだ。同氏は「当社は従業員のうち約65%が営業であり、残念ながらITリテラシーはそれほど高くない。ある日、突如としてDXに取り組むという話になったが、紙による分厚いDX実行計画書が配られ、社員の反応も薄いものだった。そのため、いきなりDXは素人が何もせずにオリンピックに出場しようとするものだ」と話す。
同氏は「3ステップを踏んでいくことが非常に重要。いきなりDXを目指すべきではない。DXをスタートする時に、さまざまなことに新しく取り組もうとして挫折するため、まずは成果を作ることが必要だ」と述べた。
そのためには、日常的に使うもの、自社に合った仕組み、全員参加できる流れを作ることを推奨している。日常的に使うについては、新しい習慣は難しく、同社は長い業務フローがあるため、メール、電話、会議と全員が使うものに着目した。
進藤氏は「さまざまなITツールが社内に散らばっているため、その起点になるものを作れないかという発想。その時にハブになったものがSlackであり、そのほかのツールも検討したが『試せる』ことと『仕事の流れを変えない』という点でSlackに決めた。自社の段階に合わせてツールを選びデジタル化することが重要だった」と述懐した。
Slackにしろ、そのほかのツールにしろ、強みと弱みがあるが、さまざまな業務の起点にしたいこと、そしてシステム連携を重視していることからSlackの導入に舵を切った。
ただ、導入しても利用してくれなければ意味がないため、勤怠管理と日報をSlackに一元化し、Slackを利用しないと業務が開始できない状況にしたほか、トップダウンによる浸透、社内ルール・ガイドラインを作成した。また、IT部門と現場をミックスした組織を設け、DXアンバサダーとして導入推進係を置いた。同氏は「人と組織のクセを利用して習慣にツールを組み込んだ」という。
結果として導入3カ月後には8割以上の社員が毎日利用するようになり、メールの祖維新数が40万通削減され、全社員を対象としたアンケートでは97%が業務・コミュニケーションが効率化されたと回答したという。
DXではなく「業務改善」
続いては、なしくずし的なDX。これは、成功体験の共有、仕組みを作り成果とデジタル化を広げることを進めた。成功体験の共有では、IT部門ではなく実際に業務削減を実現した現場の人の体験談をホームページ上で公開するなど、自動化・効率化を評価する“社論”を醸成したという。
仕組みを作り成果を広げることについてはRPAやAI、DXという言葉だけが独り歩きして難しい印象を与えかねないため、「業務改善」という言葉に置き換えている。
また、Slackを利用してやりたいことのアンケートを取り、例えば自動化したい業務をできるorできないに仕分け、できる業務は方法を伝え、できない業務は必要がなければやめるような仕組みとした。その結果、営業の知恵袋チャンネルなどが立ち上がり、気軽に投稿するだけで事例を得ることが可能になっている。
さらに、デジタル化を広げるために脱ハンコ、脱電話に取り組む。従来、承認はハンコだったがiPhoneからも可能とすることで漏れを軽減し、管理部門から営業担当への確認事項をSlack上で迅速に確認ができるようにしている。
電話も内線電話で指示出しをしていたものをSlackに置き換えている。進藤氏は「結果として679個のアプリが存在している。業務を変えずにSlackという1つのツールに載せており、年間11万時間が削減された」と説く。
3600人がほぼ100%で利用するように
ITで会社の強みを伸ばすことに関しては、導入だけで終わらせない、つながりやすいシステムにする、DXそっくりさんの3点をポイントとして挙げている。同氏はSlackをきっかけに自社の強いところだけを伸ばすべきだと提案している。
同社の場合、営業が強みのため、顧客データ化はSanSan、顧客フォローはマーケロボ、受注管理はkintoneといったSaaSに投資・利用し、Slackをハブとしてデータをつなげている。強みに投資した後は、従業員がよく使うツールの導入を進め、ハブ化を促進することでつながりやすいシステムにしていくことが望ましいという。
DXそっくりさんについて進藤氏は「さまざまなSaaSを導入したあとに『DXって何?』ということに陥りがち。そのため、DXそのものになる必要はなく、まずはデジタルツールがつながる世界を作ればいい。当社はSlackをハブにデジタルツールをつなぐ世界を作っており、Slackにチャットするだけで業務が完了し、ハイパーオートメーションを実現している」と説明した。
そして、同氏は「DXはデータがつながり、判断して仕事に楽になればいい。Slackを中心に累計で年間96万時間が削減された。3年間をかけてSlackを導入し、デジタルハブを作り、さまざまなSaaSツールを採用してハイパーオートメーションという形でDXに取り組んだ。現在、業務の大半がSlackに集約されており、現在では3600人が利用し、ほぼ100%の利用率となっており3年間で累計メッセージ数は3600万メッセージ、ファイル数は393万ファイルとなっている。当社は気が付けばDXしていた」と振り返った。
講演の最後に進藤氏は「小さく改善し、現場に広げ、見直したうえでデジタル化して、強みを絞り、疑似DXしていくことを推奨している。無理やりDXしなくてもデジタル化の先にDXになることもある」と力を込めていた。