米国航空宇宙局(NASA)は2023年4月27日、国際宇宙ステーション(ISS)の運用について、2025年以降も延長することで参加国と同意したと発表した。

ISSの運用は2024年までとされていたが、米国が2030年までの延長を提案し、日本、欧州、カナダが参加を表明していた。そしてロシアが26日、2028年までの延長に同意した。

ロシアによるウクライナ侵攻が続くなか、ISSは一種の“聖域”として、欧米などとロシアとの協力関係が続いている。その一方で、ISSの運用が終わる2030年以降を見据え、各国でさまざまな動きも始まっている。

  • 運用延長が決まった国際宇宙ステーション(ISS)

    運用延長が決まった国際宇宙ステーション(ISS) (C) NASA

ISSの運用延長をめぐる動き

ISSは米国、日本、カナダ、欧州、そしてロシアなど計15か国が共同で運用している宇宙ステーションである。

全体の大きさはサッカー場ほどで、質量は約420tもあり、高度約400kmの地球低軌道を、約90分で地球を一周する速さで回っている。

1998年から建設が始まり、ロシアが最初のモジュール「ザリャー(ザーリャ)」を打ち上げたのを皮切りに、宇宙飛行士が滞在・実験するためのモジュールや太陽電池などを次々に打ち上げて結合していき、2011年をもって完成した。その後も新たなモジュールの追加や、民間企業が開発した補給船や宇宙船が訪れるなど、日々発展を続けている。

これまでに約250人の宇宙飛行士や旅行者が訪れ、船内の微小重力環境や、船外の高真空、高放射線環境を活かし、宇宙ならではのさまざまな実験や研究が3000件以上行われてきた。

ISSは人類の宇宙活動の拠点であると同時に、人類史上最も高価で、技術的に複雑な建造物のひとつでもある。そして、米ソ冷戦の対立を越えて建造されたことから、国際協力と平和のシンボルとも称される。

ISSの運用をめぐっては、当初は2016年に運用を終えるとされていた。そんななか、2021年12月31日に、ISSの中心国である米国のバイデン政権は、ISSの運用を2030年まで延長することを表明した。

これを受け、他の参加国はそれぞれ検討を行い、日本と欧州は2022年11月に、またカナダも今年3月に、2030年までの運用延長への参加を正式に表明した。

  • ISSの全景

    ISSの全景 (C) NASA

ロシアの参加が決定

こうしたなか、ロシアは最後まで態度を保留にしていた。2021年に米国が2030年までの延長を呼びかけたときは、前向きな姿勢を示していた。しかし、2022年2月に始まったロシアのウクライナ侵攻による欧米からの経済制裁や関係悪化などを背景に、同年7月には「2024年以降にISSから離脱し、独自の宇宙ステーションを建造する」と表明し、運用延長に与しない態度を取ったこともあった。

この背景には、政治的な意図があったことは間違いないが、その一方で技術的な問題もあった。ロシアのモジュールの大半は、ISSの建設当初に打ち上げられたものであり、すでに設計寿命を超過しているものもある。最近も空気漏れなどの事故が起きたこともあり、耐久性、安全性という面から、運用延長に懸念の声があったのも事実だった。

昨年8月には、ロスコスモスの有人宇宙飛行プログラムの責任者を務めるセルゲイ・クリカレフ氏が、「ISSへの関与の終了に関する決定は、ISSの技術的状態と結果の評価に基づいて行います」と述べていた。

こうしたなか、ロシアのエンジニア・チームは自国のモジュールの耐久性について調査を行い、今年2月には2028年までの運用延長は可能とする報告書を発表していた。

そして4月26日、ロシア政府がISS計画へのロシアの参加を2028年まで延長することを承認したことを発表した。また、ロシアの宇宙開発を管轄する国営宇宙企業ロスコスモスは、ユーリィ・ボリーソフ総裁の署名による書簡を、NASAや欧州宇宙機関(ESA)、カナダ宇宙庁(CSA)へ送ったとしている。

ISSに参画するすべての主要パートナーが延長に合意したことで、ISSは少なくとも2028年までは、現在の枠組みと規模で運用が続くことが決まったことになる。

ロスコスモスは、「ロシア連邦政府が、ISS計画へのロシアの参加を2028年まで延長することを承認したことをお知らせいたします。ISS計画は、宇宙分野で最大かつ最も成功した国際プロジェクトであり、このような素晴らしい研究所がその運用を継続し、宇宙探査における人類の最も大胆なアイディアの実現に貢献することをうれしく思います」とコメントしている。

また、NASAのISS部門の責任者を務めるロビン・ゲイタンズ氏は「ISSは、科学と探査を前進させるという共通の目標を持った、素晴らしいパートナーシップ事業です。この素晴らしいプラットフォームの運用期間を延長することで、過去20年以上にわたる実験と技術実証の恩恵を受けられるだけでなく、今後もさらに大きな発見を実現し続けることができます」と述べている。

  • 1998年に打ち上げられた、ISSの最初のモジュール「ザリャー」

    1998年に打ち上げられた、ISSの最初のモジュール「ザリャー」。すでに設計寿命を超えているが、2028年まで運用可能とされる (C) NASA