次に、大脳皮質を68の領域に分け、各領域の皮質厚と性別間の不平等との関係が調べられた。その結果、右前部帯状回尾側、右眼窩前頭回、左外側後頭葉において、男女間の不平等が大きい国ほど大脳皮質厚の男女差が大きく、男性よりも女性の大脳皮質が薄い結果が見られたという。また、性別間の不平等がなければ大脳皮質厚の男女差は見られず、さらに右前帯状回尾側の大脳皮質は女性がより厚いという傾向が認められたとした。併せて、右前部帯状回尾側における性別間の皮質厚の差と性別間の不平等との関係は、経済状況の影響をGDPに基づいて差し引いた後も認められたとする。

なお、大脳半球全体ならびに各領域の表面積、海馬の体積、頭蓋内の容積と各国の性別間の不平等との間には関係は認められなかったとしている。

男女間での差があった領域のうち、前部帯状回と眼窩前頭回は、困難に耐え忍んでいる時や、不公平な状況において他人と自分とを比べている時に活動するという。また、うつ病患者では同領域の大脳皮質が薄いことや、PTSD患者では同領域の体積が低下していることも確認されている。さらに、ストレスは神経細胞の大きな変化を引き起こすこと、幼少期に受けたストレスは成人後も大脳皮質の厚みに影響することなどもわかっている。

今回の結果からは、不平等により女性が不利な環境にさらされ続け、そのために生涯を通じて脳に対するストレスの影響を受けていることが考えられるとする。つまり、脳の性差の一部は環境によって形成されること、さらに女性にとって不平等な環境が女性の脳にとっても潜在的に悪影響を及ぼしている可能性が示されたのである。研究チームは今回の研究結果について、男女平等を実現する政策にとっての科学的なエビデンスになることが期待されるとした。

ただし今回の研究では、女性の脳にとって問題となる不平等が何かを具体的に明らかにはできなかったという。社会での男女の不平等に含まれる要素のうち、脳の性差に最も影響しているものや、社会的な環境が脳の発達に大きな影響を与える時期はいつなのかを明らかにする追跡調査が、男女平等のための具体的な対策を明らかにするために必要だとしている。

さらに今回はMRIデータが用いられたが、MRIを経済的に利用困難な低中所得国からのデータ収集が制限されていた点も課題だという。経済状況と男女間の格差が関連していることから、この点も今後の研究では改善が求められるとした。