京都大学(京大)は5月10日、29か国の健康な成人の男女について、性別による不平等の指標である、世界経済フォーラムによる「ジェンダー・ギャップ指数」と、国連開発計画による「ジェンダー不平等指数」(それぞれ2019年のもの)から算出した性別間の不平等指標と、MRIによる脳の構造画像との関連を解析した結果、右半球の皮質厚の男女差は性別間の不平等と関連が認められたことを発表した。

  • 今回の研究の概要。

    今回の研究の概要。(出所:京大プレスリリースPDF)

同成果は、京大 医学部附属病院の植野司特定病院助教、京大 医学研究科の宮田淳講師、チリ・カトリック大学のニコラス・クロスリー助教、アメリカ国立衛生研究所のアンドレ・ザグマン研究員らの国際共同研究チームによるもの。詳細は、米科学雑誌「米科学アカデミー紀要(PNAS)」に掲載された。

脳構造の性差には、性別によるホルモンや遺伝子の違いが影響していることが考えられる。しかし、それらだけが脳の性差の原因とは限らないという。脳は日々の暮らしの中で受けた刺激によって変化することが知られており、男女格差が大きくて不利な立場を余儀なくされる女性は、脳の発達においても不利な影響を受けている可能性があるとする。

研究チームは、男女格差による生活環境の違いが脳に影響し、それが脳の性差と関係するのか否かを明らかにする研究は、公共政策で男女間の不平等という問題を取り上げ、その解消をはかるべきか否かという社会的な意思決定について意義ある知見をもたらすと考え、今回の研究を行ったという。

今回の研究では、脳の構造に関して、29か国・139か所のオープンアクセスの脳画像データベースから得られたデータと、今回取得されたデータをもとに、18歳~40歳の健康な成人女性4078人、成人男性3798人のMRIによる脳の構造画像データを用い、大脳皮質の厚さと表面積、海馬の体積が求められた。またジェンダー・ギャップ指数とジェンダー不平等指数を組み合わせ、性別間の不平等指数も参加国ごとに算出された。

脳の構造に関するデータと性別間の不平等指数との関連を調査した結果、右大脳半球の皮質厚の男女差が性別間の不平等の程度と関連することが示されたという。つまり、性別間の不平等が大きいほど右大脳半球の大脳皮質は男性に比べて女性で薄くなる傾向が見られたのである。この傾向は、各国の経済発展の差による影響をGDPに基づいて差し引いても認められた一方で、男性では特に関係は認められなかったとする。

  • 今回の研究から、右大脳半球の皮質厚の男女差は性別間の不平等と関連が認められた。

    今回の研究から、右大脳半球の皮質厚の男女差は性別間の不平等と関連が認められた。(出所:京大プレスリリースPDF)