機械的に自己整流する従来のブラシ付きDCモータと異なり、3相永久磁石ブラシレスDC(BLDC)モータの制御には電子整流回路が必要です。本稿では、BLDCモータの動作原理について簡単に説明し、続いて幅広く使用されている2つの整流方式の特性、利点、欠点を、複雑さ、トルクリップル、効率について考察。その後、BLDC整流の革新的な新しいアプローチを検討したいと思います。

BLDCの構造

BLDCモータとは、ステータにある3相の電機子巻線と、ロータの永久磁石で構成される回転電気モータです。BLDCモータの機械構造は、従来の永久磁石ブラシ付きDCモータの逆で、ロータに永久磁石を内蔵しています。これに対して、モータの巻線はステータに取り付けられています。しかし、BLDCモータはその名のとおり、定期的なメンテナンスや交換が必要なブラシがないため、摩耗や破損の影響を受けにくいという特徴があります。BLDCモータのロータには永久磁石が使われており、一定の磁界が得られるため、低慣性モーメントを備えた高効率、高トルクのモータを実現することができます。BLDCモータは、本質的な信頼性と可変速駆動能力により、白物家電、HVAC、自動車、ロボットを含む産業機械など、多数のアプリケーションで広く使用されています。

3相BLDCモータの整流回路は一般に、ディスクリート部品か、またはMCUと統合パワーモジュールで実装されます。ディスクリート部品で設計する場合は、アーキテクチャやトラブルシューティングにかなりの設計知識が必要であり、実装にも時間がかかります。専用のモータ制御用ICとディスクリート電力ステージを組み合わせて使用すると、追加回路がまったく不要かわずかしか必要ないため、採用しやすい方法となっています。

多くのメーカが製品に付属してセットアップやデバッグが簡略化される、専用ソフトウェアを提供しています。完全なディスクリートソリューションで、ソリューションの部品コストを抑えることができる場合もあります。しかし、高集積化ソリューションにより、PCB面積の削減や製造工程の短縮、すなわちBOMの低減、在庫コストの削減、新しい設計での派生ソリューションの迅速な再使用の推進を通じて、システム全体のコストを削減し、ソリューション全体の信頼性を向上させます。現在、ディスクリート電力ステージを備えた専用の制御ICもonsemiでは提供しています。

BLDC制御

一般的なブラシ付きDCモータと対照的に、BLDCモータ制御システムはインバータとして知られています。BLDCモータ制御システムは、モータを駆動するための電力ステージ、センサレス動作での逆起電力信号を検出するセンスアンプ、センサ動作のためのエンコーダまたはホールセンサ、およびMCUベースのコントローラで構成されています。

このコントローラは、速度や位置に関するフィードバック情報を適切なPWM信号に変換し、モータを動的に制御します。インバータベースのシステムではコストが増加し動作が複雑になりますが、この欠点は信頼性とエネルギー効率の向上、ノイズの低減、動作範囲の拡大、速度とトルクの適切な制御など、多くの利点によって相殺されます。BLDCインバータを実装するには、電子設計、レイアウト、ファームウェアプログラミングの専門知識とこれらのタスクを実行するためのツールやリソースへのアクセスが必要になります。

BLDCシステムで幅広く使用される2つの整流アルゴリズムとして、矩形波制御とフィールド指向制御(FOC)(ベクトル制御とも呼ぶ)があります。矩形波整流は最も単純ですが、最も効率が低く騒音が大きい方式です。FOCはより実装が複雑ですが一般的に静かで高効率です。どちらの方式もセンサ付きとセンサレスが可能です。

矩形波整流

矩形波整流では、モータの各相に2つの電源スイッチデバイスを使用しており、これらは所定の「オン/オフ」シーケンスに従います。この方式は制御アルゴリズムが単純で、基本的なMCUに実装できるため人気があります。矩形波制御は、モータ速度の制御に非常に効果的ですが、最も効率が悪い方式です。それでもなお、整流中、特に低速領域ではトルクリップルが大きくなり、単純な閉ループ動作を必要とするローエンドアプロケーションには人気があります。

モータ巻線は随時3本中2本しか電流が流れないため、非線形性により大きなトルクリップルが発生します。その結果、非線形性によってノイズや振動が発生し、電流コントローラは相間移動する電流伝達の過渡現象に反応しないよう十分に低速度でなければならず、全体的な性能が制限されます。180°整流方式では矩形波整流で高トルクを生成できますが、120°整流方式ではトルクリップルが最小限に抑えられます。スイッチングシーケンスは、モータの回転に伴い、連続する2つのモータ位相(60°間隔)を伝導させるように決定されます。

フィールド指向制御

フィールド指向制御(FOC)は、処理要件が厳しく複雑な整流方式であり、ハイエインドアプリケーションに適しています。矩形波制御に対するFOCの利点としては、正確な位置決め、高速度機能、低トルクリップルおよびノイズ、高い電力効率などがあります。FOCでは、モータ電流フィードバックに基づき電圧と電流をベクトル計算することにより、センサレスでモータの整流を行いますが、アプリケーションで必要な場合はホール効果センサを利用することも可能です。

FOCは広い動作範囲にわたって高い効率を維持し、速度とトルクの両方を正確に動的制御できます。FOCでは、3つのステータ電流は直交するトルク成分と磁束成分で構成されるベクトルとして表現されます。クラークとパークによる数学的変換では、時変の交流電流および電圧波形を直流値に変換し、下流の処理要件を簡素化します。FOCの主な欠点は、必要な処理能力が大きく、より強力なMCUが必要になる場合があることです。

直接トルクと磁束制御

DTCやDTFCは、しばらく前から存在していましたが、Theta Power Systems International(TPSI)によって、トルクと磁束を直接制御するセンサレスBLDC整流への新しいアプローチが開発されました。

DTFCは新しい概念ではありませんが、TPSIはBLDCモータの磁束を弱め、速度を向上させる独自の効率的な方法を開発しました。DTFCはブレーキアルゴリズムに理想的であり、高慣性負荷による制御減速を提供できます。リアルタイムにモータフィードバック情報を伝送する高速データバスを採用し、制御電流のアンペアあたりの最大トルク(MTPA)を提供します。あらゆる負荷条件下(飽和状態も含む)で高いモータ効率を達成し、ノンストップ運転や極端な温度環境下でのモータの熱補償機能を備えています。非常に低速で正確なトルクを必要とするアプリケーションの場合、TPSIの実装はこの問題に対する優れたセンサレスソリューションであり、センサが不要なためシステムコストを削減できます。

TPSIの実装を従来のDTC(およびFOC)と比較した場合の利点は以下のとおりです。ただし、これらに限定されません。

  • 非常に低い電流需要で閉ループ起動可能
  • 高速域での優れた安定性
  • 非常に本質的なセンサレス動作
  • 高速テレメトリにより、モータをセンサとして使用可能
  • アンペアあたりの最大トルク
  • ノイズを低減
  • 性能のスケーリングが容易
  • センサなしでも優れた低速性能(~5Hz)
  • 全速度範囲でクラス最高のトルク調整
  • モータの迅速な起動作業を簡素化するユーザインタフェース

TPSIのDTFCを実装するには、追加の処理能力が必要です。onsemiの「ECS640A」は、この高度な制御技術をArm Cortex-M0+クラスのMCUに実装した製品となります。

3-in-1の選択制御

onsemiの構成可能なモータコントローラ「ecoSpinファミリ」では、これまで検討してきた3つの制御方法のいずれかを選択することができます。ECS640Aはこのファミリの最初のデバイスであり、SiPソリューションです。Cortex−M0+マイクロコントローラ、3個のセンスアンプ、リファレンスアンプ、3個のブートストラップダイオード、そして高電圧・高速動作用に設計された高電圧ゲートドライバのすべてを、1個の10mm×13mm QFNパッケージに統合しています。最大600Vで動作するMOSFETとIGBTを駆動でき(モノリシック3相ハーフブリッジ・ゲートドライブIC「FAN73896」)、外部電源デバイスに350mA/650mA(標準)のゲート電流をシンクまたはソースする6個のゲートドライバ出力を備えています。

また、必要に応じて、センサ動作をサポートするGPIOホールセンサ入力を内蔵し、単一または複数のシャント測定を可能にする3つの独立したローサイドソースピンも備えています。このデバイスは占有面積が小さく集積度が高いため、ディスクリートパワーデバイスと組み合わせて使用してスケーラビリティを上げるのに最適です。このデバイスには、フラッシュローダ、デバイスの起動ファイルおよびシステムファイル、周辺機器ドライバ(CMSISドライバスタイル)、周辺機器デモ用サンプルコードで構成されるソフトウェア開発キット(SDK)が付属しています。また、onsemiは、TPSIと共同で、ECS640A向けのDTFCファームウェアを提供しています。これによって、より強力かつ高価なMCUソリューションで整流を行うことなく、Arm Cortex-M0+プロセッサで最適なモータ性能を実現できます。

使いやすいグラフィカルユーザインタフェースにより、コード開発が簡素化され、市場投入までの時間が短縮されます。ユーザは、使用する具体的なモータに対応した係数パラメータを自動生成し、モータを回転させるための細かな作業に迷うことなく、システムを簡単にセットアップして素早く実行できる統合ソリューションが気に入るでしょう。

柔軟性と高集積化

BLDCモータはさまざまなアプリケーションで普及が進んでいますが、その利点を十分に発揮させるには適切な整流が必要です。BLDCモータコントローラICを選択する場合、統合レベルが高く、整流オプションの数が最も多いものを選択することが理にかなっています。onsemiのECS640Aモータコントローラは、センサ付きアプリケーションとセンサレスアプリケーション向けの柔軟性と使いやすさを兼ね備えたデバイスです。

本記事は「onsemi Blog」を翻訳したものとなります

著者プロフィール

Joe Howell
onsemi
Sr. Systems Engineer