アマゾン ウェブ サービス ジャパン(AWS)は4月20日・21日と2日にわたり、千葉・幕張メッセで年次イベント「AWS Summit Tokyo」を開催している。会場での開催は4年ぶりということもあり、現地は多くの人でにぎわっていた(一部セッションはオンライン配信を行っている)。

初日の基調講演のテーマは「今踏み出す、変革への一歩」。本稿では、基調講演で代表執行役員社長の長崎忠雄氏が話した内容を中心にお届けする。

  • アマゾン ウェブ サービス ジャパン 代表執行役員社長 長崎忠雄氏

サービスに機械学習を取り入れてきたAmazonとAWS

ChatGPTの登場により、注目を集めている「生成系AI(Generative AI)」。ガートナーは、生成系AIを「コンテンツやモノについてデータから学習し、それを使用して創造的かつ現実的な、まったく新しいアウトプットを生み出す機械学習手法」と定義している。

現在、さまざまなITベンダーが独自の生成系AIの開発に取り組んでおり、AWSも4月13日に生成系AIに関する新たなツールを発表した。

長崎氏は、「機械学習は進化したことで、画期的な転換期に差しかかっている」と述べた上で、「Amazonは20年以上にわたり、機械学習を取り込みながら進化してきた」と語った。

Amazonでは、ECサイト「Amazon.com」におけるレコメンデーション、フィルメントセンターにおける1日当たり150万個のパッケージの発送、AIアシスタント「Amazon Alexa」、ドローンによる配達などに、機械学習を活用しているという。

さらにAWSは、「AIや機械学習サービス、トレーニングと認定プログラム、Machine Learning Universityなど、さまざまな取り組みを通じて、機械学習の民主化に注力してきた」と、長崎氏は説明した。

企業の安全な生成系AI利用を実現する「Amazon Bedrock」

そして、長崎氏は、「新しいコンテンツやアイデアを創造できるAIの一つであり、創造をかきたてるもの」として、生成系AIに話を進めた。同氏は機械学習と同様に、AWSが生成系AIに取り組んでいると述べた。

例えば、Amazon.comにおいては、基盤モデルを導入して検索結果を改善している。また、Alexaの教師モデルでは、最小限の入力情報から、多言語による応答を実現している。

長崎氏は、生成系AIに関するサービスとして、先日発表されたばかりの「Amazon Bedrock」を紹介した。同サービスは、基盤モデルを使って生成系AIベースのアプリケーションを構築することを可能にするもので、限定プレビュー版を提供中だ。

長崎氏は、企業が生成系AIを使う上で、以下の3つの課題があると指摘した。

  • 自社業務にあった大規模基盤モデルを探すのが大変
  • 巨大なインフラの管理を避け、コストを抑えてシームレスに統合したい
  • 秘匿情報を含む自社データを使って基盤を構築したい

「Amazon Bedrock」は、企業が生成系AIを利用する上でぶつかる、上記のような課題を解決するものとなる。「Amazon Bedrockでは、データを外に出すことなくカスタマイズでき、業務データをセキュアに分析可能。また、セキュリティツールを組み合わせることで、安全に運用できる」(長崎氏)

  • 「Amazon Bedrock」は企業が生成系AIを利用するにあたり抱える課題を解決する

生成系AI向け基盤モデルとEC2インスタンスも提供

また、「Amazon Bedrock」は、複数の基盤モデルから用途に適したものを選択可能だ。具体的には、Amazonが提供する基盤モデル「Amazon Titan」、スタートアップが提供する基盤モデル「AI21 Labs」「Anthropic」「 Stability AI」を利用できる。

「Amazon Titan」は2つのモデルがある。1つは、要約やテキスト生成 (ブログ記事の作成など)、分類、オープンエンドの Q&A、情報抽出等のタスクのための生成系基盤モデル「Titan Text」だ。もう1つは、テキスト入力 をテキストの意味を含む数値表現 (「埋め込み表現」と呼ばれるもの) に変換する基盤モデル「Titan Embeddings」だ。

生成系AIを活用する際のリスクの一つに、不適切なコンテンツを入力したり、不適切なコンテンツがアウトプットとして出てきたりすることがある。AWSの基盤モデルは不適切なコンテンツを排除するよう構築されており、長崎氏は「われわれは責任あるAIの利用をサポートする」と語った。

  • 「Amazon Bedrock」で利用できる基盤モデル

加えて、生成系AIに関するサービスとして、大規模な生成系AIアプリケーションに最適化された、AWS Inferentia2を搭載する「Amazon EC2 Inf2 インスタンス」の一般提供も開始されている。同インスタンスの推論のコストパフォーマンスは、他の同等のAmazon EC2 インスタンスと比較して最大40%向上しているという。

  • AWSは機械学習に特化した専用チップを開発している

生成系AI人気の火付け役となったChatGPTはシンプルな操作性や精度の高さから人々の好奇心を引き付けている一方、使い方を誤るとリスクが高いことも指摘されている。こうした状況を踏まえ、AWSはユーザーが安全に生成系AIを利用することを可能にするサービスを出してきた。まだまだ、生成系AIを巡るテクノロジーの進化から目が離せない。