重力による成長速度の測定は、これまでもさまざまな銀河観測データを用いて行われてきたが、今回、銀河の向きの情報を新たに組み合わせたことで、より精度良く求めることに成功したという。つまり、銀河の向きの情報を用いることで、銀河スケールでの一般相対性理論をより強力に検証できたことになるとする。

  • (上パネル)重力によって銀河が密集する速度とその進化。横軸が、地球から見た銀河サンプルまでの距離。縦軸は宇宙の構造が成長するスピードを表すパラメータで、値が大きいほど早く成長する。オレンジの帯は、一般相対性理論に基づく標準宇宙モデルが予想する成長速度の予想範囲。誤差棒つきの3つの赤丸が、今回の研究で得られた3つの銀河サンプルに対する測定結果。いずれも一般相対性理論と矛盾がないことが表されている。(下パネル)構造の成長速度の測定誤差の大きさ。縦軸は誤差の大きさ。上パネルで得られた測定誤差(赤丸)を、従来の方法から得られた誤差(青丸)と比較したもの。青丸に比べて、赤丸はすべて小さい値になっていることから、今回の測定結果は、構造の成長速度をより強く制限できたことが表されている

    (上パネル)重力によって銀河が密集する速度とその進化。横軸が、地球から見た銀河サンプルまでの距離。縦軸は宇宙の構造が成長するスピードを表すパラメータで、値が大きいほど早く成長する。オレンジの帯は、一般相対性理論に基づく標準宇宙モデルが予想する成長速度の予想範囲。誤差棒つきの3つの赤丸が、今回の研究で得られた3つの銀河サンプルに対する測定結果。いずれも一般相対性理論と矛盾がないことが表されている。(下パネル)構造の成長速度の測定誤差の大きさ。縦軸は誤差の大きさ。上パネルで得られた測定誤差(赤丸)を、従来の方法から得られた誤差(青丸)と比較したもの。青丸に比べて、赤丸はすべて小さい値になっていることから、今回の測定結果は、構造の成長速度をより強く制限できたことが表されている(出所:京大プレスリリースPDF)

銀河の向きは、これまでにも重力レンズ効果の測定に用いられてきたが、銀河自身が持っている向きは、重力レンズ効果で生じるわずかな「ゆがみ」を捉える上で障害になる。そのため、クリアな重力レンズ信号を捉えるために、いかにして銀河固有の影響を取り除くか、という問題に焦点を当てた研究が進んできたとする。しかし今回は、その邪魔者扱いされていた銀河固有の向きを、逆転の発想によって宇宙論の検証に活用することで、強力な手段となることを示すことに成功した形だ。

今回の研究ではアーカイブデータが用いられたが、現在も世界中で宇宙観測が進められており、膨大な観測データが出揃うことで、高精度の検証が進むことが期待されるという。特に、すばる望遠鏡を用いた宇宙論の観測プロジェクトでは、望遠鏡に搭載された超高視野カメラのHSCと多天体分光器のPFSによって、きわめて質の良い観測データが取得されており、今回の研究手段を応用することで、競合するプロジェクトよりも突出した成果を引き出すことも可能となるとしている。

また、銀河が持つ固有の向きや形は、重力を介してダークマターと関わるだけでなく、宇宙の成り立ちと進化の過程とも密接に関係していると考えられるという。それらの関係を解き明かすことができれば、銀河の向き・形状の観測から、従来の手法では難しい、初期宇宙に起こった未知の現象の痕跡探しが可能になるだけでなく、ダークエネルギーの性質の解明などの成果も期待できるとする。そのため今後は、観測のみならず、理論的な研究を推し進めることも重要になるとしている。