そこで今回は、可視化窓が電子放出特性に影響しないようさまざまな工夫が施され、はやぶさ2の実機との誤差が2%程度に収まる可視化モデルが実現された。これにより、実際に宇宙で生じている現象を地上で高精度に再現でき、なおかつ計測できるようになったとする。
研究チームは、同可視化モデルを用いて、中和器内部のプラズマを観察したとのこと。その結果、プラズマの発光強度に空間的な分布があることが実験的に初めて示されたという。また、高密度のプラズマを生成していると考えられてきた、アンテナと磁気回路のエッジの間の領域において、特に強い発光(=高密度プラズマ)が観測された。さらに、特に劣化に影響すると考えられるアンテナの根本においても高密度プラズマが存在することが確認されたとする。
今回の研究では、レーザ誘起蛍光法(LIF法)を用いて、プラズマ中のイオンの密度と速度の計測も行われた。その結果、計測箇所によりイオンの密度が異なることはもちろん、速度分布は多峰性を持つことが解明されたとのことだ。また、放出される電子電流やマイクロ波の強度、燃料の量を変えて実施した場合、どの条件でも多峰性の存在比はほぼ変わらないという法則を発見したという。
以上の計測結果をもとに、イオン音波に現れる振動を考慮した理論モデルを適用したところ、モデルと計測結果がよく一致したとする。つまり、中和器プラズマの各所でイオン音波によるイオン振動が生じており、この振動によりエネルギーが増加し劣化に影響する可能性があることが示唆されたという。
研究チームは、今回の研究成果がもたらしたイオン密度・速度分布の2次元空間情報は、劣化メカニズムの理解をさらに発展させていく上で重要な基礎的知見となるとする。また、将来的に中和器を大電流化するために必要な、より高効率なプラズマ分布を設計する際に、これらの情報は必要不可欠となるとのこと。それに加え、可視化の知見、マイクロ波放電プラズマ物理の理解はイオンエンジンに限らず広く有用な成果だとしている。