そこで研究チームは今回、従来の磁性材料でのF置換の報告を参考にあらかじめ合成したBa、Fe、Coを金属イオンとして含むペロブスカイト酸化物(BaFeO3,BaFe0.9Co0.1O3,BaFe0.8Co0.2O3)とフッ素含有高分子を混合。そして、従来のフッ素ドープ酸化物の合成条件と比較して低温の400℃で熱処理することにより、従来と比較してFの置換量が1桁多いF置換ペロブスカイト(Fの最大限置換されたものの一例:BaFe0.8Co0.2O2F)を合成することに成功したという。
研究チームは、高濃度かつペロブスカイト酸化物粒子内に均一にF置換を行うことで、金属イオンのうち特にCoの価数が大きく変化することが、放射光によるX線吸収端近傍構造(XANES)スペクトルにより確認されたとする。OER活性を評価したところ、特にBaFe0.8Co0.2O3にF置換したBaFe0.8Co0.2O2Fでは、OER活性がF置換により4倍程度(水分解反応全体としては2~4倍程度の性能向上と推定)と大きく向上したとする。
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(a)BaFe0.8Co0.2O2Fの走査型透過電子顕微鏡像。Ba(赤)と、F(緑)が均一であり、触媒内に均一にF-が置換されていることを示す。(b)BaFe0.8Co0.2O3にF置換を行う前後のCo K端のXANESスペクトル。F置換によりスペクトルが低エネルギー側にシフトし、青の点線で囲んだプレピークの強度が減少していることから、Coが還元され価数が減少したことが示唆される。(c)今回の研究で開発された触媒によるOER活性向上の模式図。それぞれの球の色は、記載の元素の種類に対応(出所:東北大プレスリリースPDF)
これらの結果から、高濃度でF置換を行うことでCoの価数が変化したことが、OER活性向上の主要因であることが示唆されるとしている。また今回の研究成果は、今後のレアメタルフリーOER触媒の新たな設計指針になることが期待できるという。
研究チームは今後さらに研究を発展させ、ほかの金属元素を含むペロブスカイト酸化物に対し、今回の研究で開発された手法を展開することで、より高活性かつ安価なペロブスカイト酸化物OER触媒の開発を目指すとした。
さらに、今回の研究成果をほかの高活性触媒合成の技術(ナノ化や多孔質化などによる電気化学的表面積の向上など)と合わせることも有効だという。また、金属元素の価数はOERのみならず多くの触媒反応において重要であることから、今回の研究成果はOER触媒だけでなく、さまざまな反応における触媒の設計指針として有望なものとなることが期待できるとしている。