高校生が開発した小型衛星 愛称は「Ambitious」

今回開発されたClark sat-1は、1Uサイズ(10cm角・重さ約0.94kg)のキューブサットで、その愛称は全国のクラーク国際の生徒からの募集により「Ambitious」に決定した。

  • 今回の宇宙教育プロジェクトで開発された人工衛星「Clark sat-1」(写真はモックアップ)

    今回の宇宙教育プロジェクトで開発された人工衛星「Clark sat-1」(写真はモックアップ)

同衛星は2021年10月から開発が始まり、各種申請手続きやJAXA(宇宙航空研究開発機構)による各種審査などを経て、2023年3月に完成したとのことだ。今後、JAXAへの引き渡しを経て打ち上げに向かう予定で、生徒による考案・協議で設定されたミッション達成に挑む。

そのミッションは、ISSからの放出成功(ミニマムサクセス)・超小型衛星との通信成功(フルサクセス)・衛星に搭載されたカメラでの地球環境の撮影、および、音声やイラストデータの衛星からの受信(エクストラサクセス)の3段階が主なものとなる。また、実現可能性は極めて低いが、生徒の意志によりチャレンジするエクストリームサクセスとして、スペースデブリ(宇宙ゴミ)の撮影も目指される。

エクストリームサクセスが設定された背景には、生徒たちからの"宇宙環境問題"に対する関心の大きさがあったという。宇宙の利用について学ぶ中で、スペースデブリ問題をはじめとする「持続可能な宇宙」に関するテーマに注目が集まったとのことで、宇宙環境に加えて、地球の環境問題についても、宇宙から見ることでその現状を多くの人に知らせたい、という願いも込められているという。

  • 生徒主体のプロジェクトを象徴するように、記者発表会にはクラーク国際の生徒も登壇。ここまでの思い出や周囲への感謝を語った

    生徒主体のプロジェクトを象徴するように、記者発表会にはクラーク国際の生徒も登壇。ここまでの思い出や周囲への感謝を語った

  • 記者発表会の司会を務めたのもクラーク国際の生徒。プロジェクトを中心として進める「宇宙探求部」の国際広報チームに所属する2人の生徒が、進行を行った

    記者発表会の司会を務めたのもクラーク国際の生徒。プロジェクトを中心として進める「宇宙探求部」の国際広報チームに所属する2人の生徒が、進行を行った

また記者発表会内では、今回の人工衛星開発プロジェクトの応援ソング「Satelite.AMBITIOUS」が披露された。楽曲を制作したクラーク国際のパフォーマンスコースの生徒たちと共に、プロジェクトに賛同したというラッパーの晋平太氏が特別ゲストとして登場し、パフォーマンスを行った。

  • 応援ソング「Satelite.AMBITIOUS」をクラーク国際の生徒と共に披露したラッパーの晋平太氏

    応援ソング「Satelite.AMBITIOUS」をクラーク国際の生徒と共に披露したラッパーの晋平太氏

人工衛星の運用に向けクラーク国際に管制局を設置

衛星打ち上げ後の運用に向けては、クラーク国際の校舎にて管制局の設置工事が実施されている。そこでは、アマチュア無線従事者免許を取得した生徒らの手によって、Space BDおよびクラーク国際の教員のサポートのもと運用が行われる予定だ。

衛星の製造を担当したアークエッジ・スペースの辻政信氏によると、衛星の構造自体はシンプルながら耐久性に優れたものになっているという。また打ち上げ後は、半年~1年ほどの軌道上運用を経て高度を落とし、大気圏で燃え尽きる見込みだとする。

中須賀教授「高校教育でのキューブサット開発を当たり前に」

中須賀教授は、日本の宇宙人材不足を憂いているといい、国内の宇宙ビジネスを先導するベンチャー企業が数多く海外から人材を獲得していることについて「もったいない」と話す。そしてその解決のためには、高校年代から宇宙に関する教育の機会を提供することが望ましいとのことだ。

その教育コンテンツとして中須賀教授が最適だとするのが、キューブサットだ。高校年代で1Uキューブサットの開発を経験し、大学教育で6Uキューブサットの開発やミッション達成を目指す経験を得られれば、卒業後には即戦力として衛星開発に携わる宇宙人材になれると見通す。そしてそのためには、キューブサットの開発が問題解決能力を育む教育コンテンツとして、段階的に利用されるようになればいいとする。

また、キューブサット開発の前段階としては、今回のプログラムでも行われたCanSatによる問題解決プログラムがある。「CanSatを中学年代で取り入れ、それを高度化させた1U開発を高校で行うといった流れを標準的な教育として落とし込むことができれば理想的」だと語った。そして今後は、「CanSatを用いた教育プログラムをすべての都道府県で実施したい」と最初の目標を掲げ、その後も宇宙教育の拡大・向上に向けて動いていきたいとした。