そこで今回の研究では、バージニア工科大のナイン准教授らによって開発された、直径135nmおよび500nmの極めて細いポリスチレン繊維と、その上で細胞を培養できる一連の技術を共同研究で用いて、1本の上での細胞の運動を観察したという。
観察の結果、その運動が、末次教授らがこれまで明らかにしてきたアクチン細胞骨格制御システムと、細胞膜の形状を制御するI-BARドメインによる膜形態形成システムの協調によって、2次元および3次元の細胞運動と同様に制御されていることが判明したとする。
ところが、細胞突起は1次元では、2次元や3次元よりも形成速度やサイズが大きいコイリング(渦巻状)様式を取ることが確認された。そしてコイリングは、I-BARドメインを持つタンパク質「IRSp53」に依存することも解明された。また、理研の清末チームリーダーらとの共同研究において、格子光シート顕微鏡が用いることで、アクチン繊維のダイナミクス(分子動態)がIRSp53に依存することも確かめられたという。
さらに、詳細な運動様式の解析の結果、I-BARドメインによって協調的に駆動されるアクチン細胞骨格システムは、細胞の核を細胞全体が移動する際に、引っ張り込む役割をすることも明らかにされた。研究チームは、これまで、細胞の核が細胞全体の移動に伴ってどのように協調して移動するかについてはほとんど不明だったことから、その点でも新規性があるとする。
細胞の培養基質は細胞の産業応用において重要だが、今回の研究成果はその基質の形状について、人工繊維の使用の可能性を示すことができたと考えられるという。1次元では細胞の突起構造の亢進が見られ、その機序は、2次元培養と同じであることが明らかにされた。細胞突起は細胞外小胞のもとにもなることは、研究チームが先行研究で発表済みだ。そのことから、細胞の突起に由来する細胞外微粒子の産生効率化などに適した培養基材の開発に資することが考えられるとしている。また、細胞外基質と細胞との接着機構の解明により、がん細胞の転移機構の解明などにも資すると考えられるとした。