名古屋大学(名大)は3月3日、クフ王のピラミッドの北側にある石組みの切妻構造「シェブロン」の背後にあり、2016年に研究チームが発見した南北に延びる通路状の未知の空間「ScanPyramids North Face Corridor」(NFC)の位置と形状を、素粒子ミューオンを用いた多地点宇宙線イメージング技術により、数cmの高精度で詳細に特定したことを発表した。
同成果は、名大大学院 理学研究科の森島邦博准教授、同・大学 未来材料・システム研究所の北川暢子特任助教に加え、高エネルギー加速器研究機構(KEK)、エジプト・カイロ大学、仏・CEAなどの研究者も参加した国際共同研究チーム「スキャンピラミッド」によるもの。詳細は、英オンライン科学誌「Nature Communications」に掲載された。
スキャンピラミッドでは2015年より、最先端科学技術を用いてエジプトのピラミッド群の調査を行ってきた。名大が行っているのは、宇宙線が大気圏内に飛び込むことで生じる二次宇宙線の一種であるミューオンの高い物質透過能力を利用した、巨大構造物や自然地形などに対する非破壊内部可視化技術だという。
宇宙線イメージングによるピラミッドに関する発見は2016年のNFCだけでなく、翌2017年の大回廊上部の「ScanPyramids Big Void」(SPBV)も知られている。両空間ともにピラミッド外部からつながる通路は確認されておらず、ピラミッドを透視することで初めて発見できたといえるものであるため、両空間ともに今もなお4500年前の建造当時の構造が保たれていると推測されている。
ミューオンの検出は、画像フィルム型の「原子核乾板」検出器を用いて行われる。同検出器は電源不要、軽量、コンパクトという特徴を持つことから、従来は不可能だった場所にも設置することが可能という特徴がある。そして2019年、その特長を活かし、下降通路の4か所(NFCの真下)に6器、アルマムーンの通路の3か所(NFCを見上げるような配置)に4器が設置され、多地点からの同時観測が行われた。
下降通路はアルマムーンの通路と比べてNFCに近いため、そこに設置された検出器からは、より高い解像度でNFCを画像化でき、その断面形状を高精度で決定できるという。一方、アルマムーンの通路の検出器からは、NFCを側面から画像化できるために、高精度でNFCの傾きや長さを決定できるという。