既報のように、宇宙航空研究開発機構(JAXA)は3月3日、先月の打ち上げを中止したH3ロケット初号機について、原因の調査結果を公表した。問題の原因として特定されたのは、地上と機体を電気的に切り離した瞬間に発生したノイズ。地上側に対策を施し、めどが立ったことから、3月10日までの再打ち上げを目指すことが決まった。
実際の波形まで調べて問題を特定
H3ロケット初号機は、2月17日に初フライトに臨んだものの、第1段エンジン「LE-9」の燃焼開始後に異常が検出され、打ち上げを中止していた。この経緯については、前回の記事で報じたので、詳しくはそちらを参照して欲しい。
JAXAは早い段階で「機体や地上設備の電気的な挙動が影響を与えた可能性が高い」と絞り込んでいたものの、原因の特定には難航。JAXAの岡田匡史プロジェクトマネージャによると、原因が見えてきたのはほんの数日前だったとのことで、今回の予備期間内に打ち上げるためには、かなりギリギリなタイミングでの解決だった模様だ。
前回の記事で報じたように、問題が発生したのは、「1段機体制御コントローラ」(V-CON1)と呼ばれる装置だ。この中には、エンジン用の電源供給系統があるのだが、経路上の半導体スイッチがオフになったことで、供給が遮断。この異常を検知したことで、シーケンスが自動で中断されていた。
この半導体スイッチをオン/オフするFPGAは、機体と地上を繋ぐアンビリカルを経由して、地上側から制御している。ここには電源ラインと通信ラインがあるが、JAXAはここに計測器を設置して、実際の波形を調査。その結果、電気的離脱時に発生したノイズにより、FPGAが誤動作していたことを突き止めた。
この電源・通信ラインは、リフトオフ時に物理的に遮断(アンビリカル離脱)されるのだが、よりマイルドに遮断するため、その前に地上側の機械式リレーによって、電気的に遮断することが行われていた。今回問題となったノイズは、この機械式リレーの作動によって発生したものだ。
機械式リレーの作動によってノイズが発生するのは割と一般的な事象なはずだが、同様に電気的離脱を行っていたH-IIAロケットでは、これまで同じ問題は起きたことは無かったという。なぜH3ロケットだけで発生したのか、どういった違いによって発生するのか、その理由は現時点では分かっていない。
なお「実機型タンクステージ燃焼試験」(CFT)では、非常時に対応できるよう、電気的離脱は行っていなかった。そのため、CFTのときには異常は無かったのに、今回の打ち上げ時に初めて発生した、というわけだ。
時間差を付けることで問題を解決
ノイズの過電圧でFPGAが異常な動作をしたのか、それともノイズがたまたまコマンドと解釈できるようなものだったのか、詳細はまだ不明。ただ、いずれにしても、ノイズが原因であることは分かった。そこで、対策として、電気的離脱の手順を変更。ノイズを抑制する効果が確認できたという。
電源・通信ラインは合計5本あるという。従来は、ギリギリまで通信を確保するため、LE-9着火後のFLI(フライトロックイン)のタイミングですべて同時に遮断していたのに対し、時間差を付けて順次遮断するように変更した。これは地上側のプログラム変更のみで行い、機体側には一切変更は無い。
すでに、VAB(大型ロケット組立棟)内での検証試験にて、この対策の有効性は確認できているが、念のため、機体移動後の射点でも最終検証を行う予定だという(打ち上げ前日18時半からの30分~1時間ほど)。ただ、最終検証では波形の観測まではできないので、誤動作しないかどうかのみ確認するとのこと。
電気的な事象、とくにノイズのようなものは、再現性が無い場合も多く、原因の特定は非常に難しい。この究明にあたり、搭載する先進光学衛星「だいち3号」(ALOS-3)のチームからも協力の申し出があったそうで、本来なら顧客の立場なのだが、電気回路の専門家がレビューに加わり、一緒に対応にあたったという。
問題が解決できたことで、いよいよ再打ち上げということになるが、気になるのは予備期間の短さだ。予備期間は3月10日までで従来と変わっておらず、3月6日からのわずか5日間の中で打ち上げる必要がある。冬期の種子島は氷結層による延期も多く、当日に延期したら、次は早くても3日後だ。チャンスは1回か2回だろう。
岡田プロマネは、「後は無い。ただ、だからといって焦るものではない」とコメント。「今度こそ打ち上げを成功させるべく、最後の一瞬まで頑張りたい。これまでエンジニアが最高のパフォーマンスを出してきているので、打ち上げの成功に繋がると思っている」と、意気込みを述べた。