SAPジャパンは2月14日、2023年のビジネス戦略に関する記者説明会をハイブリッド形式で開催した。
説明会では、2022年10月に最新版をリリースしたパブリッククラウド型のSAP S/4HANAである「SAP S/4HANA Cloud, public edition」に注力する方針とともに、パートナー支援の新たな取り組みが発表された。
2022年はグローバル・日本ともクラウドビジネスが好調
SAPのERP製品の最新モデルであるS/4HANAからは、パブリッククラウド型のSAP S/4HANA Cloud, public editionのほか、オンプレミス型の「SAP S/4HANA」、プライベートクラウド型の「SAP S/4HANA Cloud, Private Edition」が提供されている。
SAPジャパンは2023年、SAP S/4HANA Cloud, public editionの提供に注力する方針だ。今後、最新機能などのアップデートは同サービスで最初に実施し、その後にパブリッククラウド版、オンプレミス版に実装していくという。
SAPジャパン 代表取締役社長の鈴木洋史氏は、「企業のイノベーション推進のためには、短期間で導入・利用開始できるパブリッククラウド版ERPの活用が重要になる。業務をERPに合わせるフィット・トゥ・スタンダードの手法を徹底的に取り入れ、よりシンプルにERPを導入・活用できるよう支援していく。現状はプライベート型のほうが売上は多いが、今後は売上の半分がパブリック型になるよう活動していく」と語った。
2022年におけるSAPのグローバル業績は、総売上高が前年比11%増の308億7100万ユーロ、同社が注力するクラウド事業の売上は前年比33%増の125億5600万ユーロとなった。また、SAPが重要指標とみなすCCB(Current cloud backlog、特定の基準日時点から12カ月間で見込まれるクラウド売上)も前年比27%増となった。
「国内ではオンプレミスの売上が想定通り減少したが、クラウドビジネスはグローバルと同等に好調で、総売上は前年比で1%増となった」と鈴木氏は説明した。
鈴木氏によれば、2022年は中堅中小企業や大企業の子会社において、SAP S/4HANA Cloud, public editionの採用が増加したという。
中堅中小企業での採用が増えた理由について鈴木氏は、「大幅なカスタマイズが不要で、短期間に低コストで導入・利用できる点や、今後もアップデートを通じて新たなイノベーションなどを享受できる点が採用の決め手になっていると考える。また、SAPを利用する企業同士のネットワークができることにもインセンティブがあるだろう」と分析した。
リスキリングや開発支援などパートナーとの協業を強化
SAP S/4HANA Cloud, public editionの拡販に向けて、SAPジャパンはパートナーエコシステムの拡大・強化にも取り組む。2022年から中堅中小企業向けビジネスにおいてはSAPから直販を行わず、100%パートナー経由の間接販売に移行している。今後も同販売体制は継続する。
鈴木氏は、「パートナーとワンチームとなって、中堅中小企業のお客さまの生産性向上に努める。そのために、ERPのみならず、すべてのクラウドソリューションのパートナー向けトレーニングメニューを拡充する」と述べた。
具体的には、パートナー企業の既存のSAPエンジニアのリスキリングにつながるトレーニングプログラムを提供する。パートナー同士が協業できるようマッチングも支援し、SAPの定着、導入効果測定のための体制づくりを支援するプログラムなども拡充する。
パートナーが提供するソリューションの開発支援にも着手する。パートナーの知見を生かしたアプリケーションをより迅速に開発できるよう、2022年に提供を開始したローコード/ノーコード開発ツール「SAP Build」の利用を促進し、開発の知見を共有するための新しいハッカソンやプロトタイピングの支援なども実施する予定だ。
「クラウドERP導入にあたり、基本的にはフィット・トゥ・スタンダードを目指すべきだが、それでエンドユーザーの負荷が増えるようでは本末転倒であり、カスタマイズとの折衷案を見出す必要がある。パートナーソリューションの活用は1つの解となる」(鈴木氏)
他方でカスタマーサポートでは、6つのフェーズから成るカスタマージャーニーを定義し、それらに伴走するサービス提供モデルを確立させるという。
2022年に立ち上げたカスタマーサービス部門で提供するサービスも拡充する予定だ。例えば、「SAP Preferred Success」で提供する機能導入計画からシステムのデプロイメント、エンドユーザーのトレーニングなどを支援するサービスのほか、本番環境稼働後の運用保守サービスなどもサブスクリプション型で提供する。
SAPジャパンは、企業のサステナビリティ経営支援に向けて、2022年に「サステナビリティサービスパッケージ」を提供開始した。2023年もサステナビリティ関連ソリューションの提供を予定しているという。
自社におけるサステナビリティの取り組みでは、2023年までにカーボンニュートラルの実現を目指す。使い捨てプラスチックの段階的廃止も継続する。また、D&I(ダイバーシティ&インクルージョン)の領域では、IT業務未経験者にSAP関連スキルのトレーニングを行う人材育成プログラム「でじたる女子プロジェクト」のような、女性活躍や地方再生につながるエコシステム構築に取り組む。