研究チームはこのような背景から、腹部大動脈瘤の予防・治療法を確立することを目指して長らく研究を続けてきた。そして今回は、モデル動物に形成される腹部大動脈瘤に対し、体脂肪減少効果などが報告されている中性脂肪「トリカプリン(C10:TG)」の影響を検証することにしたという。

その結果、トリカプリンが投与された動物では、腹部大動脈瘤の形成・進展の抑制が観察されたとする。またそれに加え、形成後からトリカプリンを投与した場合には、腹部大動脈瘤が退縮することも確認された。トリカプリンが投与された動物を詳細に調べたところ、動脈の硬化、血管線維成分の破壊、線維分解酵素の増加(マトリックスメタロプロテアーゼなど)、血管平滑筋の低下、栄養血管の狭窄など、多くの腹部大動脈瘤関連病態が抑制されていることが判明したという。

  • (左)形成された腹部大動脈瘤。(中央)トリカプリン投与後経過。(右)トリカプリン投与により腹部大動脈瘤が縮小

    (左)形成された腹部大動脈瘤。(中央)トリカプリン投与後経過。(右)トリカプリン投与により腹部大動脈瘤が縮小(出所:NEWSCAST Webサイト)

さらに、同じ中性脂肪の一種で、炭素の数が2個だけ少ない「トリカプリリン(C8:TG)」を投与した場合は腹部大動脈瘤の抑制効果が観察されず、抑制効果はトリカプリン(C10:TG)に特有のものである可能性が示されたとする。

今回実験に用いられたトリカプリンは、ヒトでも安全性が高いことが確認されているという。研究チームは、今回の研究成果を用いて今後ヒトでの臨床研究を実施することで、これまで存在しなかった腹部大動脈瘤の治療薬を創出することが期待できるとした。