近畿大学(近大)は2月3日、中性脂肪の一種である「トリカプリン」に、これまで治療薬の存在しなかった腹部大動脈瘤の発症抑制および縮小効果があることを、モデルラットを用いて世界で初めて明らかにしたことを発表した。

同成果は、近大大学院 農学研究科の久後裕菜博士研究員、同・財満信宏教授、同・森山達哉教授、大阪大学大学院 医学系研究科 中性脂肪学共同研究講座の平野賢一特任教授(常勤)を中心に、慶應義塾大学、浜松医科大学、国立循環器病センターの研究者も参加した共同研究チームによるもの。詳細は、臨床および基礎医学と薬理学に関する全般を扱う学術誌「Biomedicine & Pharmacotherapy」に掲載された。

大動脈瘤とは、心臓から送られる血液が通る最も太い大動脈において、一部がこぶのように膨らんでしまう病気のことで、その部分で破裂しやすくなるため、命にかかわる。大動脈の部位によって分類され、腹部の大動脈にできた場合は腹部大動脈瘤と呼ばれ、大動脈瘤の中で最も発症頻度が高いという。

腹部大動脈瘤は、無自覚、無症状であることが多いとされる。大動脈瘤ができていることもわからないまま突然破裂することもあるため、「サイレントキラー」とも呼ばれており、死亡原因として英国では10位前後、米国でも15位前後と決して低くない。その発症要因には動脈硬化・高血圧・喫煙・ストレス・高脂血症・糖尿病・睡眠時無呼吸症候群・遺伝などのさまざまな要因が複雑に関係するとされ、未だ完全解明には至っていない。

日本における正確な患者数は不明だが、「大動脈瘤および解離(腹部大動脈瘤以外の大動脈瘤や動脈解離を含む)」は死因の10位前後となっている。このように患者の多い病気なのだが、現状において治療法が手術のみに限定されていることが大きな課題となっていた。血圧やコレステロール値を薬で下げ、できてしまった動脈瘤が破裂することを防ぐ方法はあるが、大動脈瘤自体を縮小させる、あるいは予防する治療薬は現在のところ存在していなかった。