立命館大学、京都大学(京大)、静岡理工科大学(SIST)の3者は2月3日、天然の酸化還元補酵素をモデルとした配位子を有する、再生可能な「有機ヒドリド」を持つ「ルテニウム錯体」が、可視光の照射で触媒的に二酸化炭素(CO2)を資源となる「ギ酸」へと還元できることを初めて明らかにしたと発表した。
同成果は、立命館大 生命科学研究科の木下雄介博士(元・助教、現・北大特任助教)、京大 高等研究院 物質-細胞統合システム拠点の田中晃二特任教授、同・北川進特別教授、SIST 先端機器分析センターの小泉武昭技術職員らの共同研究チームによるもの。詳細は、欧州15か国16の化学団体が参加するChemistry Europeが刊行する気候変動に対する化学の影響に関する全般を扱う学術誌「ChemSusChem」に掲載された。
太陽光を用いて大気中のCO2を除去すると同時に、再資源化する技術は「人工光合成」として期待され、研究が進められている。そのような技術の1つに、光照射を用いてCO2を化学的に還元させて、ギ酸やメタンなどの資源に変換するというものがある。
この方法の課題として、CO2が極めて安定な物質であるため、それを有用な資源に化学的に還元するには、従来の方法では多大なエネルギーが必要となってしまう点がある。そこで研究チームは今回、植物が太陽光だけを利用していとも簡単にCO2を還元している光合成を模倣することにしたという。
生体内での還元反応では、補酵素の「ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド」(NAD+)上のニコチンアミド部位が、外部からのエネルギーによって1つのプロトンと2つの電子を受け取り、還元型NADHとなる。このNADHが基質にH-を与えて還元が行い、自身は酸化型NAD+となって再生される。このようにNAD+/NADH酸化還元対は生体内で数多くの有機物の酸化還元反応に関与し、副生成物を伴うことなく高効率で物質変換を行っているのである。
今回の研究では、天然の酸化還元反応の補酵素NAD+/NADHをモデルとしたルテニウム錯体を用いて、触媒的なCO2還元反応を可視光のエネルギーで行うことにしたという。