東京工業大学(東工大)は2月2日、ペプチドの自己組織化膜を利用した「グラフェン匂いセンサ」で、複数の匂い分子を高感度で検出することに成功したと発表した。
同成果は、東工大 物質理工学院 材料系の本間千柊大学院生、同・大河内美奈教授、同・早水裕平准教授らの研究チームによるもの。詳細は、バイオセンサとバイオエレクトロニクスの全般を扱う学術誌「Biosensors and Bioelectronics」に掲載された。
高感度な「グラフェン電界効果トランジスタ」(GFET)を用いて、さまざまな匂い分子を検出する技術の開発が期待されている。高感度で特定の匂い分子を判別できる高い標的選択性を実現するため、これまでは生物の嗅覚受容体タンパク質を使用したセンサが実現されてきたが、この方法ではセンサの安価な製造と安定な動作が困難になるという課題があった。そのため、タンパク質の機能を模倣した合成分子に置き換える手法が検討されている。
研究チームがこれまで行ってきたのが、水溶液中で分散した状態から、自発的にグラファイト表面に吸着し、表面での拡散やペプチド間の相互作用を経て、秩序構造へと自己組織化していくという特徴を持つペプチドの開発・評価だ。中でも絹糸タンパク質を模倣したペプチドは、βシート構造を形成し、グラファイト表面で構造安定な自己組織化膜を形成する。そのペプチドに匂い分子と相互作用するアミノ酸配列を追加したペプチドを、単層物質であるグラフェン表面に固定化することで、匂い分子に対して感度を持つグラフェンセンサの実現が期待できるという。
そこで今回の研究では、グラフェンを機能化するペプチドとして、分子足場用1種類とプローブ用2種類の計3種類のペプチドの設計が試みられた。これらのペプチドとGFETを用いて、植物の香りを特徴づける3種類の匂い分子の検出を目指すことにしたという。
設計されたペプチドは、グリシンおよびアラニンの繰り返しアミノ酸配列を含む分子足場ドメインを有する。同ドメインは、分子間水素結合によってβシート構造を形成し、グラファイト表面上の分子膜を安定化させるという特徴を持つ。また今回は、この分子足場配列に匂い分子と結合するプローブドメイン配列を共役させることで、匂い分子と特異的に相互作用する感応膜をグラフェン上に構築したとする。そして実際に、グラフェン表面で秩序ある均一なナノ構造を形成することが確認された。