工場のカーボンニュートラルを実現する技術に関する展示会「第1回 グリーンファクトリー EXPO」が1月25日~27日まで東京ビックサイトで開催された。27日のセミナー 特別講演にはパナソニック 執行役員の重田光俊氏が登壇し、同社が実践している「純水素燃料電池を活用したRE100ソリューション」の実証の取り組みについて説明を行った。

世界の主要国では、地球温暖化の抑制に向け、2050年までにカーボンニュートラルを実現するためさまざまな政策が施行されている。日本政府は2021年にグリーン成長戦略を公表し、2030年までに約50%のCO2削減に向けて、さまざまな分野の取り組みが加速している。2020年の日本のCO2総排出量をみてみると(環境省)、全体の約8割が産業分野となっており、企業活動におけるCO2削減は急務だ。

パナソニックでは、2030年に全事業会社のCO2排出量を実質ゼロにするという目標を掲げている。そして2050年には自社バリューチェーン全体のCO2を削減し、現時点の全世界CO2排出量の約1%にあたる3億トン以上の削減インパクトを目指している。重田氏は、「グリーンエネルギーである水素の利活用により、分散型のエネルギーエコシステムを実現していく」と述べた。

  • パナソニック 執行役員 CGXO エレクトリックワークス社 副社長 エネルギー事業担当 エナジーシステム事業部 事業部長 重田光俊氏

    パナソニック 執行役員 CGXO エレクトリックワークス社 副社長 エネルギー事業担当 エナジーシステム事業部 事業部長 重田光俊氏

3つの電池+EMSで脱炭素

パナソニックが実証を開始している「RE100ソリューション」では、純水素型燃料電池、蓄電池、太陽電池、同社が独自で開発したエネルギーマネージメントシステム(EMS)を活用し、滋賀県草津市の同社工場の電力を賄っている。そもそもRE100とは「Renewable Energy 100%」の略称で、事業活動で消費するエネルギーを100%再生可能エネルギーで調達することを目標とする国際的イニシアチブを指す。

  • 「RE100ソリューション」全体像 パナソニック草津工場の電力を賄う

    「RE100ソリューション」全体像 パナソニック草津工場の電力を賄う

  • 「RE100ソリューション」全体像 3つの電池とEMSで消費電力を調整

    「RE100ソリューション」全体像。3つの電池とEMSで消費電力を調整

同実証の方針は3つある。「最終的にグリーン電力により工場のすべての電力を賄うこと、系統が遮断をしても工場の稼働を止めないこと、工場の電力需要に追従し高効率で安価な電力供給を行うことの3つだ」(重田氏)

同実証のコンセプトは「消費地にて『CO2排出ゼロ』の発電所をつくる」。3種類の電池とEMSを活用することで天候変動や需要変化に追従した効率的な発電ができるという。重田氏は、「電力供給を止めないことが許されない工場のものづくりの電力供給においては、天候に左右される太陽電池だけでは不十分」と補足した。

つまり、天候変動に追従するには、出力変動に課題を抱える太陽光電池に加えて、純水素型燃料電池と蓄電池の発電によるバックアップが必要になるということだ。同工場では電力需要の約80%を、純水素型燃料電池の発電でカバーし、蓄電池は急激に変動する太陽電池の電力の低下に対して素早く追従して電力を補う。さらに、晴天時には太陽電池で発電した過剰電力を蓄える役割もある。

  • 3つの電池を使う理由

    3つの電池を使う理由

同実証では、需要追従により年間で98%の買電抑制率を実現する見通しだという。さらにベース電源の総発電量の約30%を削減している。「コントロールが困難な再生可能エネルギーを水素燃料電池とEMSでコントロールし、無駄なく創り無駄なく使っている」(重田氏)

  • 「RE100ソリューション」の検証結果

    「RE100ソリューション」の検証結果

なぜ水素を使うのか?

では、なぜパナソニックは水素を使うのか。純水素型燃料電池は、酸素(空気中)と水素を反応させることで電気と水を作り出す。パナソニックの純水素型燃料電池「H2 KIBOU」の出力は5kWで発電効率は56%を実現している。また、建物・敷地の形状に合わせた配置が可能で、5kWごとに出力量を設定することができる。

  • パナソニックの純水素型燃料電池「H2 KIBOU」

    パナソニックの純水素型燃料電池「H2 KIBOU」

さらに、発電時に発生する熱をお湯に変換できるコージェネレーションにも対応。エネルギーの95%が熱利用できる。約1分で起動が可能で、停電時に水素だけで発電ができ、BCP(事業継続計画)にもつながる。「工場の稼働を止めることなく、無停止によるメンテナンスが実現できる」(重田氏)

パナソニックは今後、同実証をグローバル展開し、2023年より実用化・本格導入を進める。これにより、欧州をはじめとするロシアのウクライナ侵攻に伴う脱化石燃料の需要に対応していく考えだ。

「水素の特徴を生かすためには、バリューチェーン全体の確立・補完が必要。しかしバリューチェーンの確立・補完を実現するにあたっては、技術の革新による危機や多大なシステムコスト、顧客のニーズ不足などさまざまな課題が未解決のままだ。パナソニックは、『使う』に近いところから貢献をはじめる」(重田氏)

  • パナソニックは、『使う』に近いところから貢献をはじめる

    パナソニックは、『使う』に近いところから貢献をはじめる