廃棄場をピクセルごとに分類
廃棄場の検出試験では、異なる時期に撮影した2つの衛星画像から、対象エリアを12バンドの波長データと時系列変化を持つピクセル単位に分解・分類して、廃棄物の可能性が高いピクセルのヒートマップを作っている。12バンドすべてを使用すると計算量が大きくなりそうだが、論文では、RGBと近赤外バンドだけで検出すると検出率が30%未満とかなり低くなってしまったと報告されている。
一方で、ピクセル分類器は廃棄物ではないプラスチック(温室のプラスチック屋根など)まで誤認識してしまうリスクがあるため、パッチ分類器と呼ばれる位置の情報をもった複数ピクセルのまとまりで、補完的な検証も行っている。
さらに、廃棄場とOpenStreetMapの地図データを組み合わせて、廃棄場と川などの水路との位置関係のデータを作成。川から5km以内の廃棄場を洗い出している。そして、ピクセル分類器を2017年以降のセンチネル2画像に適用し、廃棄場の可能性がある場所の1カ月ごとの変化をデータ化した。
こうして検出されたプラスチックごみ廃棄場の可能性がある場所を、高解像度の衛星画像を使って人間の目で検証する。廃棄場で時間とともに進行する変化には、色や高周波テクスチャといった特徴に加え、廃棄物を焼却する際の煙、トラックなどの作業車も含まれている。こうした変化の大きな部分は人間の目で判別しやすく、またGoogleストリートビューなどの地上から見た様子も検証に加えているという。
正規のものではない廃棄場も多数発見
こうして何段階もの検証を重ねた結果、研究チームは2019年1月から2021年3月までのインドネシア全土の衛星画像から、374カ所のプラスチック集積場を検出した。これは、データベースに登録された集積場の2倍以上の数だといい、その中には正規の廃棄場ではない場所も含まれていた。一例として、バリ島の場合は一般的に正規の廃棄場の面積が0.5~4.5ヘクタール程度であるのに対して、見つかった廃棄場の82%が0.5ヘクタール未満で、0.1ヘクタール程度の場所も多かったという。このことから、小さな廃棄場の多くが正規のものではない「勝手」廃棄場であることがうかがえる。加えて、廃棄場の場所は人口とよく相関していて、人口が増えると廃棄場も増えるようだ。
また、東南アジア全体にこの検出方法を拡大したところ、996カ所の廃棄場が検出された。これは、OpenStreetMapに廃棄場として登録されている場所の3倍以上の数だという。
東南アジア全域で見つかったこれらのプラスチック廃棄場の2割近くは川から200m以内にあり、最終的にはプラスチックゴミが海に流れ込むことで、生態系に悪影響を与える原因になる。川に溢れ出す廃棄物や、川の流れで廃棄場の一部が削り取られた地形も見つかっているといい、増え続けるプラスチックごみに実態の把握が追いついていない実態がうかがえる。その対策としては、陸上の廃棄場を迅速に把握する必要があり、衛星画像を用いて客観的に廃棄場を検出・モニタリングする手段が必要だ。
データはミンデルー財団の「グローバル・プラスチック・ウォッチ」サイトで公開されており、世界のプラスチックごみのモニタリングに利用されている。同様の取り組みは、国連開発計画(UNDP)と有人宇宙システムが協力してベトナムでも行われている。ベトナムの事例でもセンチネル2の画像が利用されており、精度向上に向けてハイパースペクトルセンサの利用も検討されているという。
無秩序に増えるプラスチックごみ対策において、広域を一度に調査できる衛星画像は強力なツールとなる。とはいえ、廃棄場の性質や人口動態との関連などをより詳細に把握するため、技術の向上が必要だ。機械学習にとって、挑戦しがいのある新たな応用ではないだろうか。