広島大学は1月20日、ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(JWST)を用いて、衝突合体の途中にある銀河「IIZw096」を観測し、赤外線放射のおよそ70%を占める同銀河の"エンジン"ともいえるエネルギー源が、中心から外れた位置の非常に小さな領域に集中して存在する特殊な例であることを突き止めたと発表した。

同成果はJWSTの早期科学観測プログラムの1つで、近傍宇宙の高光度赤外線銀河サーベイ観測を行う「GOALSプロジェクト」によるもの。広島大 宇宙科学センターの稲見華恵助教、同・トーマス・ボーン研究員、同・星岡駿志大学院生らが参加した。なお研究の詳細は、米天体物理学専門誌「The Astrophysical Journal Letters」に掲載された。

宇宙は広大だが、それでもさまざまなスケールで天体同士の衝突が発生している。スケールの大きな部類としては、銀河同士の衝突が挙げられるだろう。銀河同士の衝突は珍しくなく、宇宙の至る所で、これから衝突しようとしている銀河や、今まさに衝突中の銀河、さらには衝突の影響で大きく変形した銀河などがいくつも観測されている。

我々が属する天の川銀河もこれまで、「ガイア・エンケラドス銀河」などいくつもの衛星銀河を飲み込んで、大きく成長してきたとされる。さらに数十億年後にはアンドロメダ銀河と衝突合体し、通称「ミルコメダ」などといわれる1つの巨大銀河になることも、シミュレーションから明らかにされている。このように銀河は、衝突・合体というほかの銀河との相互作用を通じてダイナミックに変化しており、そして進化・成長を続けているのだ。

銀河衝突が起きた際、星同士が正面衝突するようなことはまず起きないが、ガスが圧縮されることによる激しい星形成(スターバースト)や、大質量ブラックホール同士の合体など、銀河全体に影響する性質の大きな変化がもたらされる。宇宙を理解するためには、この変化を解明する必要があると考えられるが、衝突の際に圧縮されたガスやダストが紫外線や可視光線を遮ってしまうため、その観測は容易ではなく、ガスやダストなどを透過する赤外線や、さらに波長の長い光などを用いて観測する必要がある。

そこで研究チームは今回、赤外線観測領域において世界最高の解像度と感度を有するJWSTを用いて、GOALSプロジェクトのターゲットとして近傍宇宙にある4つの衝突銀河の観測を行うことにしたという。