産業技術総合研究所(産総研)は、大型研究開発プロジェクト「革新的新構造材料プロジェクト」が2022年度で終わるために、この10年間に研究開発した軽量化材料活用技術のデータを集約・管理し活用するマルチマテリアル連携研究ハブを構築する計画を進めている。産総研は「AISTマルチマテリアル信頼性拠点」という名称の拠点を2023年4月に設立する準備を進めている。

この「AISTマルチマテリアル信頼性拠点」の構築計画は、12月20日に新構造材料技術研究組合(ISMA、東京都千代田区)が開催した「革新的新構造材料等研究開発」の2022年度成果報告会の中で発表した。こうした動きは、当該プロジェクトが終了する翌年度の2023年度から、物質・材料研究機構(NIMS)が鉄鋼信頼性評価拠点を設けるなどと、NIMSや京都大学(京大)などがそれぞれ連携して新構造材料開発を進める4拠点を築く計画を進めていることに連動している(注1)。

注1:2022年度まで実施された「革新的新構造材料プロジェクト」の概要については、「神戸製鋼、“革新鋼板”製の自動車部品の作製に向けたモデル部品を試作」の注を参照

産総研の「AISTマルチマテリアル信頼性拠点」は、中部センター(名古屋市)内に「非鉄信頼性評価拠点」、つくばセンター(茨城県つくば市)内に「接着技術拠点」「量子ビーム計測拠点」「LCA評価技術拠点」と、合計4拠点を設ける計画を進めている(図1)。

  • 産総研の「AISTマルチマテリアル信頼性拠点」模式図

    図1 産総研の「AISTマルチマテリアル信頼性拠点」模式図 (産総研の資料から引用)

この「AISTマルチマテリアル信頼性拠点」を構成する4拠点では、各拠点が強く連携することによって、これまで蓄えた新構造材料活用のデータ価値を向上させ、さらに各拠点がそれぞれに広報機能を高めて、企業との共同研究開発を始めるなどの連携成果を目指す計画だ(図2)。

  • 新構造材料のデータ価値を向上さるハブ機能を構築

    図2 新構造材料のデータ価値を向上さるハブ機能を構築(産総研の資料から引用)

「こうした企業との共同研究開発によって、企業からの共同研究費を得ると同時に、これをきっかけに新たな大型共同研究プロジェクトを立ち上げる基盤にすることを目指している」という。また、共同研究だけではなく、中小企業へのコンサルティングなども行う計画だ(注2)。

注2:2022年4月に産総研中部センターとつくばセンター内に、マテリアル・プロセスイノベーションプラットフォーム(MPI)という組織を設けている。このマテリアル・プロセスイノベーションプラットフォームとの連携を強めていく計画を表明している。マテリアル・プロセスイノベーションプラットフォームについては、「産総研、企業の新材料開発を支援する「MPIプラットフォーム」を開設」を参照

また、「共同研究相手となる企業が持つ当該データとの共用・利活用を進めることによって、新構造材料について高度なデータ群・付加価値を得ることも狙っている」という展開を目指している。

産総研は、この共同研究相手は大手企業だけではなく、中小企業やベンチャー企業とも共同研究をすることによって、“革新的新構造材料”を研究開発する人材を育成し、その結果として“革新的新構造材料”を実用化する高度なデータ基盤を多層に築くことを目指している。