TSMCは2022年12月6日に、建設中の米アリゾナ工場に最初の製造装置の搬入を祝う記念イベントを開催したが、台湾の複数メディアが、同社の関わる台湾におけるサプライチェーンの多くが、コスト高を懸念して米国進出に二の足を踏んでいると報じている。

台湾の中央通信社は、TSMCに追随して米進出を表明したり、すでに進出を果たした台湾系業者として半導体製造用化学薬剤を供給する台湾長春グループ傘下のChang Chun Petrochemical(長春石化)、LCY GROUP(李長栄化工)、関東化学グループのKANTO-PPC(関東鑫林)、シリコンウェハのGloballWafers(環球晶)、クリーンルームのUIS(漢唐、米子会社United Integrated Services USA)、工程設備・技術施設のMIC(帆宣、米子会社Market Tech International)とガス薬液供給システムのJTPC(和淞、米子会社Propersis)の名前を挙げている。

一方で、その他の台湾系サプライチェーン、とりわけ測定(テスト)業者が進出に二の足を踏んでいる状況が目立つと指摘。信頼性試験のMA-tek(閎康)について、TSMCの日本工場建設を受けて日本では展開を進めているが、米国進出については、コスト高や人材獲得の懸念から検討の段階にとどまっているとしている。

OSATも米国進出に懸念

Digitims Asiaが台湾半導体業界関係者の話として伝えるところによると、台湾のOSAT(後工程実装・検査受託)企業は、チップレットや主流のフリップチップ(FC)プロセスなどの最先端パッケージング施設を米国に建設することについて懸念を抱いているという。

TSMCは、台湾域内でのみ先端の3D SoICスタッキングおよびチップレットパッケージサービスを提供する可能性が高く、米国では、より成熟したInFOおよびCoWoSバックエンドソリューションを提供する可能性があるものの、先端技術を米国で行うか否か明らかにしていない。

業界情報筋によると、台湾のOSATは、米国進出の判断のために以下の3つの主要な要因を考慮すると見られるという。

  1. iPhoneやMacBookなどのデバイスは中国や東南アジアで組み立てられているため、パッケージングは最終製品組み立て業者から遠い米国ではなく依然として台湾で行われる可能性が高い。
  2. ウェハの輸送コストは、パッケージ化されたチップの輸送コストよりも低い。米国にはシステム組立工場がほとんどないため、OSATは米国内での製造に消極的である。
  3. OSATはファウンドリとは異なり、労働集約型のオペレーションを行う。TSMCのアリゾナ工場は依然として人手不足の課題に直面しているが、米国で生産ラインを運営するOSATにとって人手不足の課題はより大きくなる。

大手OSATの台ASE Technology(日月光)は、必要に応じて米国内で迅速に後工程を行う用意はあるが、重要なことは、米国で工場施設を運用することが商業的に理にかなっているかどうかを見極めることだと語っているという。

なお、TSMCは2026年に3nmプロセスがアリゾナ工場で生産開始となっても、その生産量は全体の3%にも満たないと説明しているほか、最先端半導体技術については依然として台湾内にとどめるとしている。