ちょっと前まで、冷蔵庫や洗濯機、ノートパソコンなど我々の日常生活に欠かせない機械類を購入しようとヤマダ電機やヨドバシカメラを訪れても、「入荷待ちです」、「品不足です」などと店員さんから言われたが、最近、半導体不足は徐々に緩和されてきているという。しかし、今日の世界情勢には再び半導体産業を脅かせる潜在的リスクがある。今後、半導体産業を取り巻く世界情勢はどうなっていくのだろうか。

我々が安心して半導体の恩恵を受けることができるかは、今後の大国間対立の行方にかかっている。半導体を巡る問題は色々あるが、今回はその核心とも言える台湾情勢について着目してみたい。

周知のように、今日、世界の半導体製造の中で台湾の存在感は半端ない。よって、台湾の平和と安全は世界の半導体産業に大きな影響を与えることになるが、最近、台湾を巡っては軍事的な緊張が高まっているのだ。

  • TSMCの先端プロセスである5nmを適用したウェハ

    世界でもっとも最先端な半導体の製造を担うのが台湾のTSMC。写真は、同社の先端プロセスである5nmを適用したウェハ

半導体危機を助長する原因を簡単に説明するとこうだ。10月の共産党大会で事実上の独裁者になった中国の習近平国家主席は、台湾統一は必ず実現させるため武力行使も辞さない構えを示す一方、独立指向が強い台湾の蔡英文氏は習氏の動きを警戒し、米国など欧米諸国との関係強化に努めている。蔡英文氏は近年米国との防衛上の協力を強化し、バイデン大統領も台湾有事になれば米軍が関与すると繰り返し発言し、今日、米中台の間で火花が散っているのだ。そして、双方とも妥協する姿勢は示しておらず、今年8月には米国のナンバー3とも言われるペロシ米下院議長が台湾を訪問したことで、中国の堪忍袋の尾が切れ、中国軍が台湾を包囲するように軍事演習を実施し、ミサイル発射を繰り返した。ミサイルの一部は日本の排他的経済水域(EEZ)に着弾し、緊張が一気に高まった。今日でもその緊張は続いていて、1つの出来事によって一気に軍事的緊張が高まる恐れもある。

中国が台湾を統一したい理由は2つある。1つは軍事戦略上の問題で、習氏は中国の大国化を目指しており、特に西太平洋で軍事的影響力を高め、米軍をそこから排除したい。そのためには台湾をコントロールすることが地理的にも重要で、仮に台湾の実権を掌握すれば、台湾を軍事的最前線にすることは間違いない。また、半導体を巡る経済利権もある。台湾統一を実現すれば、中国は世界の半導体競争において圧倒的に有利に立てる。そうなれば、欧米諸国も中国に対して今のような強気の姿勢を維持できなくなる可能性もあろう。それを懸念して、熊本県に台湾TSMCの工場を作ったり、日本独自で半導体生産を強化したり、また米国などと協力を強化したりしているが、中国はそれを良く思っていない。世界の半導体競争において、現在の台湾の優位性が低下することは習氏にとって政治的にマイナスとなる。

  • 熊本県菊陽町に建設が進められているJASM工場

    熊本県菊陽町に建設が進められているTSMC子会社Japan Advanced Semiconductor Manufacturing(JASM)の半導体工場。ソニーセミコンダクタソリューションズやデンソーなども出資している

このような2つの背景もあり、今後台湾有事を巡る緊張がいっそう激しくなる可能性は排除できない。軍事や安全保障の専門家、大物政治家などからは、今後数年以内に有事に発展する可能性があるとの指摘が繰り返されている。世界の半導体製造で台湾が優位に居続けることは、日本にとって実はマイナス要素が大きい。半導体を安心して手に入れるためには、今こそ行動しなければならない。これが国際政治の現実と言えよう。