九州大学(九大)は12月1日、青色LED光を波長280nm~315nmの紫外線であるUVB光へとアップコンバージョンする色素材料を発見したことを発表した。

同成果は、九大大学院 工学研究院の楊井伸浩准教授、同 Bibhisan Roy博士研究員、九大大学院 工学府の宇治雅記大学院生、独 ヨハネス・グーテンベルク大学マインツのChristoph Kerzig ジュニア教授、同 Till J. B. Zähringer大学院生、同 Julian A. Moghtader大学院生(2大学間の学生交換プロジェクトにより九大に短期滞在中)、同 Maria-Sophie Bertrams大学院生らの国際共同研究チームによるもの。詳細は、ドイツ化学会の刊行する機関学術誌の国際版「Angewandte Chemie International Edition」に掲載された。

フォトン・アップコンバージョン(UC)とは、低いエネルギーの長波長光を高いエネルギーの短波長光に変換する方法論のこと。アップコンバージョンの機構の中でも、有機分子の三重項-三重項消滅に基づく「TTA-UC」は、ほかの機構よりも弱い強度の光を変換可能という特徴を持つ。

TTA-UCの中でも、目に見える可視光(波長400nm以上)をより高いエネルギーを有する紫外光(波長400nm以下)、中でもUVB光に変換することは、光エネルギーを用いた有用化合物の製造や殺菌、排水中の有害物質の分解などで有用だという。

UVB光は日焼けの原因となるが、実は地表まで届く紫外線において占める割合は圧倒的に少なく(大半はもっと波長の長いUVA光)、人工的に生成するには、これまでは効率の悪い水銀灯などを利用するのが一般的だった。そのため、太陽光や効率の良いLED光に含まれる可視光をUVB光へと変換することが、応用上重要と考えられているのである。

しかし従来のTTA-UCでは、高エネルギーなUVB光を生成することは困難だった。また、可視光から紫外光へのTTA-UC系の多くはイリジウムやカドミウムといった重金属を使用しており、コストと持続可能性の観点から問題を抱えていたという。そこで研究チームは今回、UVB光を発することができ、TTA-UCに必要な励起三重項状態を青色光の照射により増感できるアクセプター分子を新たに開発したとする。

  • TTA-UCのメカニズムと、今回開発した青色LEDをUV-B光にUCを実現する色素材料

    TTA-UCのメカニズムと、今回開発した青色LEDをUV-B光にUCを実現する色素材料(出所:九大プレスリリースPDF)

そして、青色光を吸収できるドナー分子と組み合わせることで、青色LED光をUVB光へのUCを実現することに成功した。また、今回開発された色素材料は重金属を含まないため、低コストで生産でき、高い持続可能性を有する材料となることが期待されるという。

  • 青色LED光からUV-B光へのUCと、それに対応する波長域の太陽光スペクトル

    青色LED光からUV-B光へのUCと、それに対応する波長域の太陽光スペクトル(出所:九大プレスリリースPDF)

さらに、市販の青色LEDを光源として使用し、発生した紫外光を利用して、通常なら非常に厳しい反応条件を必要とする強い化学結合の切断を行うことにも成功したとする。

今後の展開として、今回開発された青色光からUVB光へのUC技術の効率をさらに高め、また色素材料の安定性を高めることで、繰り返し利用可能なUVB発生光源の開発が期待されるという。また、より多様な光化学反応へと利用可能な材料を開発することで、殺菌や水中の有害物質の分解、有用化合物の製造への道が拓かれる可能性があるとした。