広島大学は11月28日、光の三原色(赤・緑・青)で発光するシリコン量子ドット(SiQD)溶液の合成、ならびにフレキシブル量子ドットフィルムの作製に成功したこと、ならびにそれらの加速劣化試験を行って実用化のために重要なデータを取得することに成功したと発表した。

同成果は、広島大 理学研究科の藤本啓資大学院生、同・大学 理学部の早川冬馬学部生、広島大 自然科学研究支援開発センター(研究開発部門)の齋藤健一教授らの研究チームによるもの。詳細は、米国化学会が刊行する持続可能な化学とエンジニアリングに関連する分野を扱う学術誌「ACS Sustainable Chemistry & Engineering」に掲載された。

大きさ数nmクラスの発光性の半導体ナノ結晶である量子ドットは、近年、テレビやタブレットに活用されつつあるが、その本格的普及には、カドミウム系や鉛系(有機無機ペロブスカイト)などを用いることによる「毒性」と、「発光の高効率化」という解決すべき重要な課題があるとされる。

量子ドットの研究を17年にわたって続けてきた研究チームでは、これまでSiQDに関するさまざまな研究成果を発表してきた。最近では2022年2月に、もみ殻を原料とした赤・オレンジ発光のSiQDを用いたLEDを報告している。今回は、三原色発光する溶液分散型のSiQDを合成し、それらの量子ドットフィルムを作製して加速劣化試験を行い、さらに発光と劣化の機構の解明を試みることにしたという。

まず三原色(赤・青・緑)発光する溶液分散型SiQDがそれぞれ異なる手法で化学合成され、得られたSiQD溶液をそれぞれ高分子フィルムに分散、大きさ40mm角、厚さ0.5~3mmで、赤・青・緑発光するフレキシブルSiQDフィルムが作製された。そしてSiQDフィルムを、炎天下で太陽光に8日間、80℃の熱水(湿度100%)に12日間浸漬させた過酷条件下での実験が行われた。この実験条件は、電子機器の加速劣化試験に相当するという。

試験中、一定時間ごとにSiQDフィルムの発光スペクトル、発光量子収率測定、赤外吸収スペクトルが測定されたほか、合計6種類の手法による化学構造、物理構造の分析により、発光過程と劣化の機構の計測が行われた。