Infineon Technologiesの日本法人であるインフィニオン テクノロジーズ ジャパンは11月30日、8月に開設した東京・渋谷の新オフィスを報道陣に公開。首都圏に5か所あった拠点を1か所に集約した理由などの説明を行った。

  • インフィニオン テクノロジーズ ジャパン
  • インフィニオン テクノロジーズ ジャパン
  • 2022年8月に渋谷に開設されたインフィニオン テクノロジーズ ジャパンの新本社。ビルの屋上には同社の看板がつけられている

ドイツに本社を置き、現在、300mmウェハによるパワー半導体製造に向けた3棟目の工場建設を計画している大手半導体メーカーであるInfineon。日本の売り上げは全世界の10%ほどで、一定の存在感を示している。2022会計年度(2021年10月~2022年9月)の全社売上高は前年度比29%増の142億1800万ユーロ、日本地域だけに限っても同29%増の14億1500億ユーロと好調な業績を達成。2023会計年度についても全世界売上高見通しを155億ユーロ±5億ユーロと、半導体市況の軟化が懸念されるなか、強気の見通しを打ち出している。

  • Infineonの2022会計年度業績概要
  • Infineonの2022会計年度業績概要
  • Infineonの2022会計年度業績概要 (資料提供:インフィニオン)

そんな同社のビジネスを支えるのが、世界的な脱炭素とデジタル化という2つのトレンドであり、同社はそれらのトレンドを支えていく製品やシステムを提供していくことで、持続的な成長を狙っているという。そのため、現在、注力しているのが「eモビリティ(自動車の電動化)」、「再生可能エネルギー」、「ADAS/自動運転」、「データセンター」、「IoT」の5つの領域であり、これらで消費される電力の高効率化を狙って、成長に向けた技術開発や投資を継続している。

  • Infineonの事業部別売上割合とフォーカスエリア
  • Infineonの事業部別売上割合とフォーカスエリア
  • Infineonの事業部別売上割合とフォーカスエリア (資料提供:インフィニオン)

日本の顧客は大きく「自動車」、「産業機器」、「民生機器」の3種類に分けられるが、2022会計年度では自動車ではパワー半導体が好調で、SiCやRC-IGBTのeEV向け採用が決まったほか、日亜化学と2019年より共同開発を進めてきたフロントライト向けLED+ドライバICによる高解像度ライトエンジンも完成したという。

産業機器は好調な半導体製造装置を中心にパワーモジュールの需要が増加したほか、太陽光ならびに蓄電池を中心とした再生エネルギーや産業用電源(UPS)でのSiCの引き合い増加などがけん引したとする。

民生機器についても、ゲーム機やイヤホン、電動工具向けで伸びたとするほか、Wi-Fiソリューションの採用拡大や、セキュリティソリューションの採用拡大が進んだとしている。

  • 日本市場の概況

    日本市場の概況 (資料提供:インフィニオン)

拠点を集約した背景

そうした成長が続く同社の中でも日本市場は面白いポジションに位置する。元々、現在の同社は、従来のInfineonに、2020年に買収したCypress Semiconductorの組織を統合したもの。Cypressは、2015年にSpansion(スパンション)を買収していたのだが、そのSpansionも2013年に富士通セミコンダクター(FSL)のマイコン/アナログ半導体事業を買収しており、今日にいたるまで、このマイコンの開発部隊が日本に置かれてきた(Traveoファミリを中心に開発してきた)。

こうした買収に次ぐ買収を繰り広げてきた結果、営業、設計開発、品質評価などの拠点が首都圏で5拠点点在することとなっていた(Infineon側が大崎、東京テクノロジーセンター(北品川)の2拠点、Cypress側が川崎、武蔵小杉、かながわサイエンスパークの3拠点)。こうした背景もあり、2022年10月時点での従業員は約650名ほどだが、400名近くが半導体の設計開発や研究開発、品質保証、アプリケーションエンジニアといった何らかのエンジニアであり、顧客に対して充実したサポートを提供していたというが、テスターなどが、各拠点に分散し、案件ごとに分けて行ったり、設備の重複などもあり、最大限の効率化を目指し、1つの拠点にそれらを集約させることを決定。コロナ禍の中、慎重な拠点選定を進め、2022年8月に渋谷の地に新オフィスを開設するに至ったという。

  • 拠点が分散していた

    半導体の歴史は買収の歴史でもあるが、過去、日本の半導体メーカーの事業部を買収した経緯もあり、拠点が分散していた (資料提供:インフィニオン)

新オフィスは14階建てで、同社やその1階から12階までを借りている。特徴的なのは、2階、3階、4階、そして12階の1部をラボエリアとしている点である。主なラボの機能としてはFAラボ(解析ラボ)、CoCラボ(電波測定ラボ)、PEラボ、AEラボとしている。

  • 日本のエンジニアリング機能例

    日本のエンジニアリング機能例 (資料提供:インフィニオン)

これまでの各拠点にあった機能をそのまま持ち込んだほか、解析ラボ内に4つの特注のシールドルームを新設(アクティブ磁場キャンセラーや除振台なども完備)。部屋ごとに高解像度電子顕微鏡(2台)、集束イオンビーム(FIB)、ナノプローブが振り分けられ、必要に応じた解析を行える体制が構築された。また、マイコンの開発も担当してるため、出荷前テストなどを行うためのエンジニアリングテスター室を1フロアまるごと用意。Spansion/Cypress時代からメモリも扱ってきた経緯から、ロジックテスター、メモリテスターが備えられ、製品テストのほか、後工程におけるテストプログラム開発なども行っているという。

  • エンジニアリングテスター室

    エンジニアリングテスター室 (画像提供:インフィニオン)

  • ケミカルラボ

    ケミカルラボ (画像提供:インフィニオン)

  • シールドルーム

    シールドルーム (画像提供:インフィニオン)

  • 解析ラボ

    解析ラボ (画像提供:インフィニオン)

このほか、面白い取り組みとしては、受付を兼ねた12階はスマートオフィスとしての試みが取り入れられているという点。例えば、ロボットスタートアップugoとのパートナーシップによる次世代型アバターロボットugoが訪問者対応として、会議室にお茶を運んでくれたり、環境センシングシステムを天井に配置し、室内の人間の数やCO2濃度、温度、湿度といった状況をリアルタイムで可視化したり、コンセプトの体感展示が可能な装置が置かれていたりする。また、社内には社員のコミュニケーション促進などに向け、社内カフェも完備。バリスタに常駐してもらうなど、手厚い福利厚生によるシナジー効果創出を狙っているともしている。

  • 次世代型アバターロボットugo
  • 次世代型アバターロボットugo
  • 受付で出迎えてくれる次世代型アバターロボットugo。会議室にお茶を持ってきてくれる。ちなみに胴部のお茶受けトレイは特注品とのこと

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  • 開放的なスマートオフィス。体感展示装置は2023年より、より内容が具体化するとのこと

拠点の集約によりシナジー効果の最大化が期待されるインフィニオン。同社自身も拠点集約にあたって、設備・機能の充実を図ったことで、今後、より顧客から信頼してもらえる企業となることを目指すとしており、その信頼感を橋頭保にさらなる日本市場での成長を遂げたいとしている。