ジェットの加速機構については、1977年に提唱されたブラックホールの回転エネルギーを利用したシナリオが有望視されているという。提唱者らの名を冠した「ブランドフォード・ナエック機構(BZ機構)」は、いわば「ブラックホールのスピンによる回転式発電機」のような仕組みだと考えられるとする。

  • 磁気流体ジェットの理論モデルが予測する速度プロファイルとVLBI観測データの比較

    磁気流体ジェットの理論モデル(黒線群)が予測する速度プロファイルとVLBI観測データ(赤点がKaVA観測データ)の比較 (C)国立天文台 (出所:VERAプロジェクトWebサイト)

BZ機構で駆動されたジェットの持つパワーは、ブラックホールの回転角速度と磁気圏の回転各速度の差分と、事象の地平面における磁場強度の2乗の積に比例する。つまり、(1)ブラックホールの回転角速度、(2)ブラックホール磁気圏の回転角速度、(3)事象の地平面を貫く磁場強度、の3つの量がジェットのパワーを決めているとしており、今回の研究では、(2)を推定することに成功した形となるとする。また、先行研究で推定されているジェットパワーの値を用いて(3)の推定も行われたところ、高強度の磁場が事象の地平面を貫いていることが示唆されるともしており、研究チームでは、M87ジェットの加速機構の理解を深める新しい知見が得られたとしている。

  • 事象の地平面を貫く磁場強度の推定値

    事象の地平面を貫く磁場強度(B_H)の推定値(単位はガウス) (C)国立天文台 (出所:VERAプロジェクトWebサイト)