京都産業大学(京産大)は11月22日、近赤外線高分散分光器「WINERED(ワインレッド)」をチリのラス・カンパナス天文台の口径6.5mマゼラン望遠鏡に移設し、ファーストライトを達成したことを発表した。

同成果は、京産大 神山天文台の研究プロジェクト「赤外線高分散ラボ」を中心に、東京大学、民間企業も参加した共同研究開発チームによるもの。ラス・カンパナス天文台での設置や調整作業は、神山天文台の猿楽祐樹研究員、同・大坪翔悟研究員、同・竹内智美研究員を中心に、日本の共同研究者、同観測所を所有するカーネギー財団、同観測所の研究者らと協力して進められた。

赤外線高分散ラボでは、2015年のプロジェクト設立当初から世界展開を念頭に活動が行われており、その第一歩として、世界トップクラスの性能を持つ観測装置の開発を行ってきたとする。WINEREDの特徴は、望遠鏡で集めた光を無駄にしない(感度が高い)という点で、現在世界中で利用されている同様の装置と比べて3~5倍以上高い感度を有しており、世界最高水準を達成しているという。

実はWINEREDが開発されたのは、プロジェクト発足前の2012年5月のことで、最初は神山天文台の荒木望遠鏡(口径1.3m)に搭載された。これまで観測が行われたのは、太陽系小天体や星間物質、太陽系外惑星、京産大の創設者である荒木俊馬博士が理論研究を行っていたセファイド型変光星やはくちょう座P星、新星といった質量放出天体など、多岐にわたる。

プロジェクトが発足した後、2017年から2018年にかけては、観測条件のより優れるチリのラ・シヤ天文台の新技術望遠鏡(口径3.58m)に移設された。さらに2018年には、これまで観測されたことのない最遠方の宇宙や暗い天体などをターゲットとするため、ラス・カンパナス観測所のマゼラン望遠鏡への移設が行われることとなった。

2019年までに、WINEREDのマゼラン望遠鏡への設置や観測に必要な準備が進められていたが、ファーストライトの直前にコロナ禍となり、何度も観測が延期されることになってしまったという。3年ぶりとなる2022年5月になって、ラス・カンパナス観測所への訪問が再開され、5月、7月、9月と現地で観測に向けた準備が進められてきたとする。

そして2022年9月12日、マゼラン望遠鏡でのファーストライトが実現。続けて、装置の性能や望遠鏡駆動を確認するエンジニアリング観測や、大マゼラン星雲内のセファイド型変光星などのサイエンス観測が実施され、予定通りの性能であることを確認することができたという。

  • マゼラン望遠鏡のナスミス台でWINEREDを設置している様子

    (左)マゼラン望遠鏡のナスミス台でWINEREDを設置している様子。(右)同望遠鏡のナスミス台に設置されたWINERED (出所:京産大Webサイト)

今後は、装置自体のさらなる性能向上と、マゼラン望遠鏡での観測安定化を目指し、京産大の学生や研究員を中心に研究を進めていくとしている。

  • WINEREDのマゼラン望遠鏡でのファーストライトで得られた天体のスペクトル画像

    WINEREDのマゼラン望遠鏡でのファーストライトで得られた天体のスペクトル画像 (出所:京産大Webサイト)