東京大学(東大)、NTT、情報通信研究機構(NICT)、理化学研究所(理研)、科学技術振興機構の5者は10月31日、あらゆる量子光を望みのパルス波形で出力できる光源「量子任意波形発生器」(Q-AWG)を提唱し、その核心となる技術である量子光のパルス波形を自在に制御する手法を実現したことを発表した。
同成果は、東大大学院 工学系研究科 物理工学専攻の高瀬寛助教、同・古澤明教授を中心に、NTT、NICT、理研の研究者も参加した共同研究チームによるもの。詳細は、米国科学振興協会が刊行する「Science」系のオープンアクセスジャーナル「Science Advances」に掲載された。
光量子コンピュータや量子ネットワーキング、量子計測といった量子技術では、スクイーズド光や光子数状態、「シュレディンガーの猫状態」といった多様な量子光を出力できる量子光源が必要とされているほか、パルス波形を工夫することで、さまざまな技術的恩恵を得られることが知られている。
そのため、任意の種類の量子光を出力でき、なおかつそのパルス波形を自在に制御できる汎用的な量子光源を実現できれば、量子技術の発展に大きく寄与する可能性があるとされている。
そこで研究チームは今回、任意の量子光を任意のパルス波形で出力する光源Q-AWGを提唱し、その核心技術である量子光のパルス波形を自在に制御する手法を開発することにしたとする。
量子光は損失に弱く、損失により量子光特有の物理的性質が次々と失われてしまうほか、損失を受けた量子光は基本的に元の状態に復元できず、利用することができなくなるため、Q-AWGでの量子光のパルス波形制御は、レーザー光を任意のパルス波形で出力する「任意波形発生器」(AWG)のように、大きな損失を前提とした方法は利用できないことから、まったく異なる方法論を導入する必要があったという。
そこで今回の研究では、量子光への損失を抑えつつパルス波形を制御することを目的に、量子もつれを介してパルス波形を自在に制御する手法が考案されたという。たとえば、光1と光2が量子もつれの関係にあるとして、光2を光子検出器に入射すると、光子が検出されたタイミングで光1側に狙った量子状態が生成されるが、ここで光子検出器の前に光フィルタを設置することで、生成される量子光のパルス波形を指定することが可能であり、特に量子もつれのある光の周波数帯域を広くすることで波形制御の分解能が上がり、任意のパルス波形を実現できるという。この方法では、実際に目的の量子光が生成される光1側に光フィルタを設置する必要がないため、量子光への損失を抑えたままパルス波形の制御が可能になると研究チームでは説明している。