実際にITZO薄膜の室温下での電子輸送特性が計測されたところ、体積キャリア濃度の増加に伴いHall移動度が上昇することが判明したほか、熱電能の体積キャリア濃度依存性から、ITZOのキャリア電子有効質量が0.11m0であり、IGZOと比べ30%ほどキャリア電子が軽いことが判明したという。

また、作製されたITZO薄膜トランジスタを用いて、室温下のトランジスタ特性が計測されたところ、伝達特性からITZO薄膜トランジスタの電界効果移動度は約58cm2/Vsであることが確認された。

キャリア電子有効質量0.11m0を使ってキャリア緩和時間を計算すると、3.6fsとなり、IGZOのキャリア緩和時間0.9fsの4倍ほど長いことが判明。研究チームでは、このIGZOの4倍ほど長い起源を明らかにすることを目的に有効チャネルの厚さの計測を実施。熱電能計測時に印加するゲート電圧による、しきい値電圧シフトは無視できるほど小さいことが確認されたほか、ITZO層が10nm以下の場合、熱電能の絶対値はシートキャリア濃度の増加に伴い単調に減少したが、20nm以上になると熱電能の絶対値が増加する現象が確認されたという。

これらの結果から、有効チャネル厚さのシートキャリア濃度依存性を算出したところ、ITZO層の厚さが10nmを超えると、シートキャリア濃度の増加に伴い有効チャネル厚さが増加しているように見え、この傾向は一般的な電界効果のみでは説明することができないことが示され、それがチタン(Ti)層/酸化アルミニウム(AlOx)層/ITZO層のエネルギーバンドの模式図を考えたとき、一般的な電界効果トランジスタで誘起されるA層に加えて、B層がドレイン電流に寄与することを意味していることにたどり着いたとする。これは、電子伝導に寄与するITZO層の厚さが10nm以上あることが、キャリア緩和時間を長くし、高い電子移動度を実現していると結論づけるものだとしている。

  • In-Sn-Zn-O薄膜トランジスタの高電子移動度の起源

    In-Sn-Zn-O薄膜トランジスタの高電子移動度の起源に関するデータ(出所:北大Webサイト)

なお、今回の研究成果について研究チームでは、電子移動度が100cm2/Vsを超える、超高移動度の透明酸化物薄膜トランジスタの実現に向けたものになると説明している。