スピンホール効果ではスピン依存の電子散乱を引き起こすため、必ずスピン軌道相互作用を介する必要があったが、スピンスプリッター効果は純粋な反強磁性磁気秩序のみに依存し、スピン軌道相互作用をまったく必要としないため、スピン流生成機構の新概念といえるという。

また今回の研究では、RuO2薄膜結晶の高品質化が実現され、(100)、(101)、(001)面など、さまざまな面方位によるスピン流生成現象が詳細に調べられた。その結果、RuO2(101)面の場合では、電流印加方向をx方向とした場合に、x、y、z方向全方位に対してスピン偏極したスピン流が生成可能であることが判明。さらに、電流印加方向と、磁気秩序方向(ネールベクトル方向)の相対角によって、異方的なスピン流が生成されることもわかった。これらの実験結果は、理論で予想されている振る舞いとよく一致しており、反強磁性磁気秩序を利用した新奇スピン流生成現象を実験的に発見したことを意味するという。

  • 従来研究の模式図

    (a)従来研究の模式図。(b)今回の研究によるRuO2中の反強磁性磁気秩序によって生成されるスピン流誘起の隣接磁性層の磁化反転の概要図。RuO2を用いた場合、全方位スピン偏極が可能なスピン流を生成できるため、外部磁場によるアシスト不要で磁化反転が可能 (出所:東北大プレスリリースPDF)

今回の研究で発見されたRuO2(101)面のスピンスプリッター効果によって生成されるz、y、z方向全方位スピン偏極のスピン流を用いることで、これまで課題となっていたスピン流誘起磁化反転現象に対して活路を見出すことが可能となるという。HDDやMRAMなどを高密度化するために有利な垂直磁化膜に対し、特にz方向にスピン偏極したスピン流によって効率的に磁化反転を行えることが期待できると研究チームでは説明しているほか、今回の研究では、印加する電流量によって反転信号の大きさを変えられることも判明したという。これは、RuO2の交換バイアスによって隣接磁性層の垂直磁化が多磁区化し、それによって部分的に磁化反転が生じ、多値(アナログ)的出力となるためだとのことで、このような特性を活用することで、近年注目を集めている人間の脳を模倣したニューロモルフィック・コンピューティングへの応用展開が期待できるとするほか、今回の成果を基軸として、今後、高性能な磁気デバイス開発がさらに盛んに行われていくことが期待されるとしている。