西村康稔 経済産業大臣は9月30日の記者会見にて、Micron Technologyと同社の日本子会社マイクロンメモリ ジャパンによる広島工場での先端メモリ半導体製造に対して最大約465億円を助成すると発表したが、経済産業省(経産省)の資料より、その全貌が見えてきた。

外資系企業に対する補助金支給の法的根拠

補助金支給の法的根拠は、外資系半導体企業(具体的にはTSMC)に経産省傘下の新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)が複数年度にわたって補助金を支給できることを可能とする法律として、2022年3月1日に施行された「特定高度情報通信技術活用システムの開発供給及び導入の促進に関する法律及び立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構法の一部を改正する法律(通称:5G促進法)」にある。

同法に基づき、Micronの日本における先端DRAM生産計画が「特定半導体生産施設整備等計画」に適合すると経産省が2022年9月30日付けで認定した。経産省は、この計画全体として総額6170億円の予算を確保していたが、すでにTSMCやソニー、デンソーによる「Japan Advanced Semiconductor Manufacturing(JASM)」に4760億円、キオクシアやパートナーであるWestern Digitalなどに929億円を支給することを決めており、今回のMicronに対する465億円の支給で、すべての予算の支給先が決定したことになる。

  • 特定半導体生産施設整備等計画の申請・認定に至る流れ

    特定半導体生産施設整備等計画の申請・認定に至る流れ(上)と認定対象となる計画の満たすべき条件(下) (出所:経産省 2022年3月1日)

広島で1β世代DRAMの量産に向けた投資を実施へ

Micronが経産省に提出した資料によれば、同社は日米の開発拠点にて並行して開発を進めることで、他社に先行して1β世代DRAMの製品化および世界最大のセル密度を実現するという。1β世代とは、10nm台プロセスの5世代目という意味で、これまで1X-nm、1Y-nm、1Z-nm、1α-nmと来ている。1βプロセスは、一般には13nm前後を指すものと思われるが、各社とも正式な値は公表していない。

Micronは、日本政府の補助金を活用して広島工場への設備投資を行うことで先端DRAMの量産を実現させる。プロセスの微細化が進むことで、DRAMの生産量は増加し、国内主要産業への安定供給につながることを経産省は期待しているという。

認定された特定半導体生産施設整備として、すでに7月より広島工場(敷地面積約21.1万m2、建設面積:約10.6万m2、従業員数3900人)の一部ライン整備のための投資を開始。2023年第3四半期から1年ほどをかけて製造装置を設置しつつ、生産を開始。2024年第2四半期に初回出荷を行い、以降、10年以上の継続生産を予定している。1β世代DRAMの生産能力は月産4万枚(300mmウェハ)。主な適用分野として、自動車、医療機器、インフラ、データセンター、5G、セキュリティなどが挙げられている。

また、特定半導体生産施設整備を行うために必要な資金の総額は約1394億円(うち465億円を日本政府が支給)とするほか、この半導体生産のために年間約860億円の資金が必要とされる見込みだという。

経産省は、10年以上の事業継続に加え、「生産に必要な原材料のうち50%以上を日本のローカルサプライヤーから調達する」ことを要望している。Micronが、次世代メモリの開発・製品化の実現に向け、日本の装置・材料メーカーと協同しながら日本の半導体エコシステム発展に貢献していくことを経産省は期待しているとされるほか、「災害等の有事の際には、サプライチェーン情報を早期に把握し、仮に原材料の供給不足や、供給リスクが高まった際には、国外を含め、他の地域から当該原材料を融通する」ことも認定の条件に含まれている模様である。

マイクロンメモリ ジャパンは、過去3年間で600人以上の新卒者を雇用したが、今後も開発及び生産拡大に合わせて、新規採用を継続することを経産省に約束している。また、Micronとしても、広島大学をはじめとした主要大学において4年間で80件以上の講演・講義を提供し、計2900名以上の学生が参加するとともに、中国経済産業局やJEITAと連携して、中国地域半導体関連産業振興協議会にコアメンバーとして参画することを予定しているとする。

今回の投資ではEUVの活用はスルー

「特定半導体生産施設整備等計画」の申請・認定条件の中には、「申請する事業者がEUV露光の技術水準を有すること」と書かれているが、「EUV露光技術を有すること」とは書かれていない。経産省は、Micronが技術水準を有していると認定したようだが、広島工場では、当面、EUV露光装置を導入する計画はないようである。

Micronは経済的には(EUVの導入は)実現可能であり、将来、最先端メモリ技術に必要となった際には、広島工場にEUV露光装置を導入するとしているが、1β DRAM製造の初期段階としては導入しないことにした模様である。なお、競合各社(Samsung、SK Hynix)は、EUVをすでにDRAM製造に導入しているが、Micronは現状では液浸ArF露光のマルチパターニングを継続使用したほうが経済的と判断している模様である。