名古屋大学(名大)と産業技術総合研究所(産総研)は9月28日、「はやぶさ2ミッション初期分析チーム」のうちの「石の物質分析チーム」の研究成果の一環として、小惑星リュウグウの表層から持ち帰った粒子の「熱拡散率」の計測を担当し、その熱物性的特徴を明らかにしたことを発表した。
同成果は、名大大学院 工学研究科の長野方星教授、同・大学院 環境学研究科の渡邊誠一郎教授、産総研 物質計測標準研究部門 材料構造・物性研究グループの八木貴志研究グループ長、同・山下雄一郎研究グループ付、JAXA 宇宙科学研究所 太陽系科学研究系の田中智教授らの共同研究チームによるもの。詳細は、石の物質分析チームで1つの論文として、米科学雑誌「Science」に掲載された。
6チームある初期分析チームのうち、石の物質分析チームの目的は、リュウグウの形成と進化を解明することであり、回収された総量約5.4gの粒子の中でも大型の、サイズ1~8mmの計17個が研究対象とされ、鉱物学的、岩石学的、物理特性的見地から分析が進められた。また石の物質分析チームは、いくつかのサブチームに分かれており、名大と産総研は、熱拡散率と比熱容量の評価を担当したという。
熱拡散率と比熱容量は、密度と組み合わせることで、さまざまな熱物性値を算出することが可能となるため、重要な値とされている。たとえば、熱伝導率と比熱容量は、リュウグウの初期天体の内部で起きうる化学反応と、物質形成をシミュレーションするために用いられるほか、熱慣性は、現在のリュウグウの温まりやすさや冷えやすさを解析するために必要な値とされている。
今回の計測において、両者が熱拡散率計測向けに受け取った試験片は、数mm角程度の小さな塊であり、一般的なフラッシュ法を用いることは不可能であったとするほか、試験片は熱物性の評価に加え、機械特性、電気特性、磁気特性や組成分析でも利用されることから、加工やセンサ類の設置などはできず、また地球の物質で汚染してもいけないという問題があり、そうした数mm角の不定形試料の熱拡散率を測定するための非汚染・非破壊による測定手法が求められることとなった。
かなり困難な条件ではあったが、名大と産総研が担当した理由として、どちらもその難条件をクリアして熱拡散率測定を行える、代替が利かない独自手法を開発していたことが挙げられる。