MEMSおよび半導体市場向けのウェハボンディングおよびリソグラフィ装置プロバイダのオーストリアEV Group(EVG)と凸版印刷より2022年4月に企業分割されたトッパンフォトマスクは、フォトニクス産業向けに大量生産(HVM)プロセスを可能にするナノインプリントリソグラフィ(NIL)の拡販活動を共同で行っていくことを発表した。

今回の協業は、NIL装置のトップサプライヤであるEVGと、半導体用フォトマスクの代表的プロバイダであるトッパンフォトマスクの強みを活かし、NILをフォトニクス製造の業界標準プロセスとして確立し、量産段階での実装を加速させ、さまざまなアプリケーションへの展開を目指すというもの。主な用途としてはAR(拡張現実)ヘッドセット、スマートフォンや車載用センサ、医療用画像システムなどが想定されている。

  • トッパンフォトマスクが製造する半導体用フォトマスク

    トッパンフォトマスクが製造する半導体用フォトマスク (C)Toppan Photomask

具体的には、トッパンフォトマスクの開発する金型と、EVGの装置・プロセス開発サービスを利用したNIL開発キットを顧客に提供し、NIL技術の普及とその可能性を高めていくとしている。また、EVGはオーストリア本社のNIL Photonicsコンピテンスセンターにおいて、関心を持つ企業に対してNIL技術や製品のデモンストレーションを提供するほか、両社はNILに関心を持つ顧客に対し、互いに相手を推奨サプライチェーンパートナーとして紹介し、サポートする予定としている。

従来のリソグラフィは、球体レンズに比べ極薄の平面レンズであり、設計によっては複数枚のレンズで構成していた光学系を1枚で実現できる可能性が高く、モバイル向けカメラの薄型化などへの応用が期待されているメタレンズのような微細かつ特殊形状パターンを作成するケースでは、技術的な限界に達しつつある。NILは、複雑な構造体にナノメートルスケールの解像度でパターンを形成できるコストパフォーマンスに優れたプロセスであるため、有力な代替手段となり得ると考えられている。また、試作と量産の両方において、設計上の制約が少ない合理的な製造手法であり、複雑な構造を効率的かつ、広い面積にわたり複製することが可能だとトッパンフォトマスクでは説明している。

ロジック微細化のNILを開発対象にはしないEVG

なお、EVGはNILを適用することが最適なマイクロ光学やフォトニクス市場に焦点を当てており、分解能や重ね合わせ精度の点で、ロジック半導体で超微細化を目指すEUV露光技術と競合することは考えてはいないという。

EVGでは、NILはそうした超微細化とは異なるさまざまな要求にこたえるための選択肢を広げる技術ととらえている。日本には、NILを超微細プロセスが求められる次世代半導体製造向けにて活用することを目指して研究を進めているグループがあるが、分解能、アラインメント精度、異物微粒子による欠陥密度などの点で回路パターンが微細化になればなるほど適用が困難になっていると言われている。そのため、EVGは半導体微細化とは異なるマイクロ光学やフォトニクスデバイスへ適用する方向でビジネスを広げているようである。