東北大学、関西学院大学、高輝度光科学研究センター(JASRI)、大同特殊鋼の4者は8月23日、JASRIの大型放射光施設SPring-8で開発された硬X線磁気トモグラフィー(磁気CT)法を用いて、先端永久磁石材料内部の磁区構造の外部磁場に対する振舞いを3次元的に可視化することに成功したと発表した。
同成果は、東北大 多元物質科学研究所の岡本聡教授、関西学院大の鈴木基寛教授、東北大 国際放射光イノベーション・スマート研究センター、JASRI、物質・材料研究機構、大同特殊鋼などの研究者が参加した共同研究チームによるもの。詳細は、英科学誌「Nature」系の材料科学全般を扱うオープンアクセスジャーナル「NPG Asia Materials」に掲載された。
現代社会においては、さまざまな機器においてモーターが活用されている。そうしたモーターの性能を向上させるためには、使われている永久磁石をより強力にする必要がある。
一般に磁性材料は、磁場を加えた際に磁化(S極とN極の向きに相当)の変化が追従しづらい「磁気ヒステリシス」という現象を示すことが知られており、永久磁石は、この磁気ヒステリシスが特に大きい性質を利用する材料とされている。
磁気ヒステリシスの過程において磁化が反転するが、途中の磁化がゼロとなる点(磁石内部でS極とN極が釣り合った状態)は「保磁力」と呼ばれ、高性能かつ強力な永久磁石材料ほど高い値を示すことがわかっている。
永久磁石材料の内部では、磁区と呼ばれる数μm以下の微細なS極とN極の分布(微小磁石に相当)がある。これまでの研究では、外部磁場を印加して、磁気ヒステリシスに対する磁区構造の変化を観察することが、保磁力メカニズム解明に向けた最も直接的なアプローチと考えられてきた。
しかし従来の磁区観察手法は、磁石表面の欠陥層などの影響を強く受けた磁石表面の磁区構造しか観測することができず、今もって保磁力メカニズムの完全解明には至っていないという。
そこで研究チームは今回、SPring-8の磁気CT法を用いることで、先端永久磁石材料の磁気ヒステリシスに対応する、磁石内部における磁区構造の変化を、3次元で可視化することに挑むことにしたという。