優秀な人材が優秀な人材を連れてくる好循環

では、RistでKaggleに関する制度をつくろうとしたきっかけはなんだったのだろうか。

長野氏「そもそも、Kaggleチームをつくろうと考えたのは、現代表取締役社長の藤田なのですが、外向けにビジネスを拡大するためには、Ristも京セラグループと言えど、小さな会社なので、明確な強みが欲しいと考えました。

その際に“Kaggle”というキーワードが出てきて、Kaggleにはランクもあるので、このランクの人が何人在籍している会社だと言えると客観的に評価してもらえるのではないかと考えました。

そこで、当時、Kaggleの日本人で1番ランクが高かった小野寺(現Ristデータ分析チーム顧問の小野寺和樹氏)をヘッドハンティングし、小野寺を中心にチームを作っていこうと考えました。小野寺はKaggleのコミュニティ内での知名度もあり、すごい人物という尊敬も集めていたため、“小野寺さんがいるなら……”ということでRistに入ってくる人も増えました。

そういった形でMaster、Grandmasterも増えてきて、そのような優秀な人材がたくさんいる環境なので、Ristに入れば成長ができるのではないかと考え、また優秀な人が入ってくるという好循環が生まれています。

AI開発の場合、複数名で多くの時間を使っても解決できなかった課題を、優秀なメンバー1人が短時間で解決してしまうということが多くあります。経験に基づく解法の引き出しの多さと発想力が重要な世界です。Ristではひとりひとりに鋭く尖ったエンジニアになってもらえるよう、スキルアップができる環境づくりと制度づくりには特に気を遣っています。」

実際、大越氏もKaggleを通じて知り合った知人がRistに在籍しており、話を聞いてRistに入ることを決めたという。

大越氏「Kaggleは計算リソースも時間もかかる競技なので、会社のサポートはありがたいし、その辺の手厚さがRistにはあるなと思いました。また、Ristでは業務でもKaggleと近しいことができます。Kaggleを業務に活かせる環境かどうかは、Kaggleをやっている人は気にするかと思います。

そういった話を聞き、やりたいことができる会社だと思い、入社に至りました。Kaggleはコミュニティも活発なので、それぞれの会社の話をする機会あり、その会社の中の人からKaggleをやっている人におすすめできるという会社と聞いて興味がわきました。」

Ristでは、優秀な人材がKaggleコミュニティを通じて優秀な人材を連れてくるという好循環と、優秀な人材が魅力的に感じる制度を整備するという両輪で、技術者のレベルを保っているのだ。

高度な技術をプロダクトとして提供

Ristでは、前述したとおり、大手企業向けの受託開発を主な事業としてきた。しかし、今期からはより多くの現場や人々の課題解決を目的に、プロダクト開発の比率を上げていくという。

長野氏「これだけ優秀な人材を集めているので、今後は1クライアントの1現場の課題解決に貢献するよりも、一度に多くの現場や人々の課題解決ができる技術やプロダクトの開発を進めていき、Ristの優秀な人材が創出する付加価値を最大化しないといけないと考えています。

Ristでは、“人類の感覚器官に、自由を取り戻す“を会社のミッションとしています。最新のAI技術を用いて、人々が目や耳を酷使しながら、あるいは体力を消耗しながら携わっている業務から解放されるよう、あらゆる業務の自動化・省力化を目指して活動を行っています。

ミッションの主語は「人類」で、世界をターゲットにしています。世界中でRistの技術が使われるためには、Ristの優れた技術をプロダクト化し、世界中に届けることが重要になってきます。2022年度の始めからは、プロダクト開発の体制を強化しています。」

Ristでは、外観検査装置組み込み専用のAI開発ツール「RPipe-Image」、物体の数量カウントに特化したAIソフトウェア「Deep Counter」の2プロダクトの提供を2022年より開始している。また、米国のLanding AIが開発するMLOPsプラットフォーム「LandingLens」を用いた外観検査内製化支援サービス「Data-Centric AI powered by LandingLens」の提供も2022年より開始している。

大越氏は、RPipe-Imageの開発に携わっている。

大越氏「AIモデルを作る際には、さまざまなアルゴリズムを試します。Kaggleでもさまざまなアルゴリズムや手法を試して、精度を上げていきます。RPipe-Imageは、誰でも高精度なAIをつくれるように、簡単にいろいろなアルゴリズムを検証できるツールです。

実は、Kaggleでも使われている手法が生きてくるので、例えば前述した画像から細胞を探すコンペで優勝した時の手法も組み込まれています。また、逆もあって、RPipe-Imageで使った手法をKaggleで使ったこともあり、それで準優勝をしました。 Ristには優秀なKagglerがいっぱいいるので、プロダクトにも、そのノウハウを詰め込もうとしています。」

最後に大越氏に今後の展望を聞いた。

大越氏「RPipe-Imageは10月の正式リリースを目指して、現在はβ版を提供しています。正式リリースまでにもっといいものにしていきたいと思っています。2,000万円以上もするよいサーバーも導入されたので、今までできなかった研究開発もできるようになると思います。いままで発表されていないような技術を開発し、Rist独自の技術を作っていけるのではないかと考えています。」

文中注釈

※1:Kaggleでは、Competitionsのほか、Datasets、Notebooks、Discussionというカテゴリがある。各カテゴリでもそれぞれ、「Novice」「Contributor」「Expert」「Master」「Grandmaster」のランクがある。
※2:ゴールドメダルはコンペ参加の上位10チーム+(参加チーム数の0.2%) に授与され、シルバーメダルは上位5%に授与される(参加チームが1000以上のコンペの場合)。