日本の衛星通信大手、スカパーJSATは2022年8月18日、通信衛星「スーパーバード9」の打ち上げについて、米宇宙企業スペースXと契約を締結したと発表した。

打ち上げは2024年の予定で、スペースXが開発中の巨大ロケット「スターシップ」を使うという。スターシップにとって、最初の商業打ち上げ契約のひとつとなった。

契約額など、詳細は不明。スカパーJSATは「『スーパーバード9』の打ち上げに向け、引き続きスペースXと協力していく」とコメントしている。

  • スーパーバード9を打ち上げるスターシップ

    スーパーバード9を打ち上げるスターシップ。写真は開発中の試作機 (C) SpaceX

スターシップ

スターシップ(Starship)は、実業家のイーロン・マスク氏が率いる宇宙企業スペースXが開発中のロケットである。

ロケットは宇宙船や衛星などを搭載するスターシップと、それを宇宙へ打ち上げる第1段ブースター「スーパー・ヘヴィ」からなり、両者を組み合わせた全長は120m、直径は9mもの巨体となる。スターシップもスーパー・ヘヴィも完全再使用でき、従来のロケットをはるかに超える大きさ、質量の衛星を、従来のロケットより桁違いに安いコストで打ち上げることを目指している。

現在スペースXが明らかにしているスペックでは、打ち上げ能力は地球低軌道に100t以上、静止トランスファー軌道に21t、打ち上げコストは約100万ドルとされる。

スペースXでは、現在運用中の「ファルコン9」、「ファルコン・ヘヴィ」の後継機として多種多様な衛星を打ち上げるロケットとして使うことを想定しているほか、有人宇宙船としても使うことを計画。また、米国航空宇宙局(NASA)が進めている有人月探査計画「アルテミス」の月着陸船としても使われる。2023年以降には、実業家の前澤友作氏らを乗せた月への旅行も計画されている。

さらに、軌道上で推進剤を補給を受けることで、月や火星へ約100tの物資を運ぶこともでき、スペースXは火星に人口100万人以上の自立した都市を築くことも目指している。

今回のスカパーJSATとの契約は、スターシップにとって最初の商業打ち上げ(企業などから受注してビジネスとして行うロケットの打ち上げ)契約のひとつとなった。一部報道では、携帯電話による衛星通信を目指す米国のASTスペースモバイル(AST SpaceMobile)が、2024年末までにファルコン9を使った複数の打ち上げを契約した際、スターシップを使うオプションが含まれていたとされる。

スターシップは現在、テキサス州ボカ・チカにある同社施設で開発中の段階にあり、これまでに高度約10kmまでの飛行、着陸試験を経験しているが、地球を回る軌道へ打ち上げられたことはまだ一度もない。

世界各国のロケット会社では、次世代の大型ロケットの開発が活発となっている。米国ユナイテッド・ローンチ・アライアンス(ULA)は「ヴァルカン」を、欧州アリアングループは「アリアン6」を、そして三菱重工は「H3」ロケットを開発している。いずれも開発中で、まだ一度も打ち上げられたことはないが商業打ち上げを受注しており、すでに競争が始まっている。

スターシップをめぐっては、以前は2021年中にもボカ・チカから軌道への試験飛行を行うとされたが、米国連邦航空局(FAA)によるボカ・チカの環境への影響評価の遅れなどにより未だ実現していない。FAAによる環境への影響評価は今年6月に完了したが、スペースXに対し、数十の環境負荷軽減策を取ることを求めている。

スペースXは並行し、フロリダ州のNASAケネディ宇宙センターにもスターシップの発射施設を建設している。

一方その間、スターシップもロケットエンジンなどの改良を重ねてきた。今年8月9日には、軌道への打ち上げを目指した試験機「S24」が地上でエンジンを噴射する試験を実施。またスーパー・ヘヴィの試験機である「B7」も9日と11日に地上燃焼試験を実施しているなど、少しずつではあるが打ち上げに向け前進している。

現時点で具体的な打ち上げ日は明らかになっていない。スペースXが米国連邦通信委員会(FCC)に提出した電波のライセンス申請書によると、今年9月1日から6か月間の期間で申請されており、FCCはそれを受理、ライセンスを付与している。しかし、肝心の打ち上げラインセンスはFAAから取得する必要があり、そのためには前述した環境への対策を取らねばならないが、現時点ではまだライセンスは発行されていない。

  • 人工衛星を打ち上げるスターシップの想像図

    人工衛星を打ち上げるスターシップの想像図。先端部分が大きな口のように開き、衛星を放出する (C) SpaceX

  • スーパー・ヘヴィの地上燃焼試験の様子

    8月11日に行われた、スーパー・ヘヴィの地上燃焼試験の様子 (C) SpaceX

スーパーバード9

スーパーバード9(Superbird-9)はスカパーJSATが調達する通信衛星で、現在東経144度の静止軌道で運用中の通信衛星「スーパーバードC2(Superbird-C2)」の後継機として運用される。設計寿命は15年以上とされる。

打ち上げ時の質量は明らかにされていないが、3t以上とみられる。スターシップの打ち上げでは静止トランスファー軌道へ投入されることになっており、同機の打ち上げ能力が21tであることから、他の衛星が相乗りする可能性もある。

衛星の製造はエアバスが担当している。契約は2021年3月25日に交わされている。エアバスが開発した最新鋭の衛星バス「ワンサット(OneSat)」を使って製造され、フルデジタル化された通信ペイロードを搭載することにより、宇宙空間においても自由に通信地域や伝送容量を変更することができる「フレキシブル衛星」であることを特徴とする。

これにより、日本をはじめとする東アジア諸国において、15年以上にわたり大容量かつ極めて自由度の高い通信を行う能力を有し、多様なニーズに対応できる衛星通信サービスを提供するとしている。

エアバスとの契約を含め、スーパーバード9へのスカパーJSATの総投資額は300億円規模となる見込みだという。

  • スーパーバード9の想像図

    スーパーバード9の想像図 (C) Airbus

参考文献

通信衛星Superbird-9 の衛星打ち上げサービス調達契約を SpaceX社と締結 | スカパーJSAT HD | スカパーJSATグループ
SpaceX - Starship
通信衛星 Superbird-9 の調達契約の締結について | スカパーJSAT HD | スカパーJSATグループ
SKY Perfect JSAT signs contract with Airbus to build Superbird-9 telecommunications satellite | Airbus