今回の研究で測定されたダークマターを含む銀河の質量は、先行研究において同じ銀河サンプルを用いて銀河の密集度合いにより推定した質量と誤差の範囲で一致しているという。

また、今回の研究では遠方銀河周辺のダークマター分布と先行研究で測定された銀河の密集度合いを用いて、約120億年前の宇宙構造から、標準宇宙論を仮定することによって、現在の宇宙構造におけるでこぼこの程度「σ8」を推定することにも成功。その結果、プランク衛星によるCMBの測定と標準宇宙論を組み合わせることによって予言されるσ8に比べて、小さい値が得られたという。

  • 今回の研究手法の概念図

    今回の研究手法の概念図。CMBを重力レンズ効果の背景光源として用いることで、120億年前の銀河周辺におけるダークマターの存在が検出された (C)NASA/WMAP,ESA/Plank,NAOJ/HSC (出所:すばる望遠鏡Webサイト)

これまでの約80億年前における近傍宇宙の観測的研究でも、σ8がプランク衛星の予測値より小さい可能性が示唆されており、今回の研究で得られた結果もそれを支持するものとなったという。ただし、今回の研究における統計的優位性は十分ではないため(今回の測定が得られたσ8になる確率は約90%)、さらなる検証が必要だともしている。

  • ダークマターの量

    (左)今回の研究で検出された、120億年前の銀河周辺におけるダークマターの信号(赤丸)と理論予測(破線)。横軸は銀河中心からの距離、縦軸はダークマターの量。(右)現在の宇宙構造におけるでこぼこの程度σ8を縦軸、その測定値を導いたサンブルの赤方偏移を横軸に取った図。赤点は、今回の研究で得られた制限、ほかの点は近傍宇宙のダークマター分布を用いて得られた値。灰色の線はプランク衛星の測定から予測されるσ8の制限 (C)宮武広直他論文著者、Physical Review Letters、American Physics Society (出所:すばる望遠鏡Webサイト)

さらに今回用いられたHSCサーベイの観測データはサーベイ途中のものであることから、全データを用いることで、より統計精度の高い測定を行うことが可能になると研究チームでは説明しており、今回の研究から、約120億年前の銀河周辺のダークマター分布測定が可能であることが示されたのみならず、遠方宇宙の情報を用いた、宇宙論検証の新しい扉が開かれたとしている。

なお、2020年代中に、HSCサーベイの広さ・深さを凌駕する新しい大規模撮像探査が3つ始まる計画のほか、2つの次世代マイクロ波望遠鏡による観測も現在進められており、その後もさらなる高精度マイクロ波観測を可能にする望遠鏡の建設が予定されていることから、研究チームでは、今回の研究は、そうした将来計画を目前にし、HSCサーベイの広さと深さを活かすことによって、遠方宇宙の宇宙論探査に先鞭を付けるものと位置付けられるとしている。