また、過去に報告されているXダイマーおよびストランドスワップダイマーの形成を阻害する変異体の観察や、結晶構造に基づく構造モデリングが行われたところ、cross形状がXダイマーに、W形状がストランドスワップダイマーにそれぞれ対応しており、S形状のダイマーはこれまでに報告されていない、新規の結合様式のダイマーであることが判明したともする。

さらに、複数の異なるダイマー変異体が作製され、観察が行われたところ、異なるダイマー構造間で頻繁に構造を変換する変異体が見出されたとするほか、その変異体の詳細な解析から、カドヘリンがS形状ダイマーのスライド運動とXダイマーのフリップ運動を経て、ストランドスワップダイマーにダイマー構造を遷移させることで、細胞と細胞をつなぐ可能性が示唆されたという。

  • 高速AFMで観察された3つの結合様式のカドヘリンのダイマー像

    (上)高速AFMで観察された3つの結合様式のカドヘリンのダイマー像。(下)その結合過程のモデル (出所:東工大プレスリリースPDF)

構造解析や溶液計測などの従来手法では、複数のカドヘリンの平均化された構造や結合状態しか解析できなかったが、今回の研究で用いられた高速AFM技術により、個々のカドヘリンのダイマー構造および結合過程を詳細に解析することが可能になり、研究チームではカドヘリンの結合メカニズムを一分子スケールで解析することで、細胞間接着に起因する形態形成や疾患発症の原理解明につながることが期待されるとしている。

なお、今後については、カドヘリンを構成するアミノ酸の内、ダイマー形成を担う領域を特定するため、さらに高分解能での構造解析に取り組むことが必要だとする。特に、今回の研究で新たに発見されたS形状ダイマーの結合を担うアミノ酸を特定することにより、その機能的意義を明らかにすることを予定しているとするほか、カドヘリンは、ダイマーを形成することで細胞と細胞をつなぎ、さらに複数のダイマーが集合したクラスターを形成することで、細胞間接着を強化することが報告されていることから、カドヘリンが実際に機能する細胞環境をより精密に再現した観察を行い、カドヘリンのクラスター形成メカニズムの解明に取り組むことで、細胞間接着の強化メカニズムの理解へとつなげていく予定としている。