そこで今回の研究では、ポリエステルの中でも多く利用されている「ブチレンスクシネート」(PBS)を用いて、多くの触媒をさまざまな条件下で検討を実施。その結果、希土類元素のランタンの錯体が触媒として有効であることが見出されたという。具体的には、メタノール中、触媒濃度1mol%、反応温度90℃、反応時間4時間で、定量的にポリエステルの原料である「スクシン酸ジメチル(コハク酸ジメチル)」と、「1,4ブタンジオール」に分解できることが確認されたとする。
また、これらを再度重合して、メタノールを放出しながらポリエステルに戻せることも確かめられたとのことで、この反応により、市販のメタノールをそのまま溶媒として使用でき、空気中で反応できることが示されたとするほか、ポリの一種である「アジピン酸エチレン」は、同じ反応条件で定量的に「アジピン酸ジメチル」と「エチレングリコール」に分解できることが判明したとする。
さらに、PETは、触媒濃度1mol%、反応温度150℃、反応時間4時間で定量的に「テレフタル酸ジメチル」とエチレングリコールに、エンジニアリングプラスチックとして家電製品などに用いられているポリの一種の「ブチレンテレフタレート」(PBT)は、同条件下で定量的にテレフタル酸ジメチルと1,4ブタンジオールに分解できることも判明したとする。
実際に市販ペットボトルを用いた実験でも、同一条件下で単量体に完全分解することに成功したという。これまでにPETの分解には、強塩基を大量に使う方法や、大量の添加剤で分解する方法などが知られていたが、今回の方法は安価な触媒と安価な溶媒のみで分解できる点、実験室レベルでは大きなスケールでも完全分解できる実用性の高い反応としており、今後の課題として、より安価により温和な条件で分解を可能にして、経済的にも見合った反応を構築することだとしている。
なお、今回の研究では、ランタン錯体の高い活性が示されたことから、今後は触媒活性種の解明を行い、さらに活性の高い触媒の開発を進めると研究チームでは説明しているほか、今回の触媒系を改良していくことで、縮合反応により合成されるプラスチックの分解についての研究を進めていくとしている。また、分解前のプラスチックよりも価値ある化学物質を作り出す、創造的分解にも挑戦していきたいともしている。