東京大学(東大)は6月29日、原子レベルに薄いタングステンとテルルからなる2次元物質「WTe2」の電子構造の直接観測に成功し、層数の偶奇によって大きく異なる電子構造が形成されることを明らかにしたことを発表した。
同成果は、東大大学院 工学系研究科 附属量子相エレクトロニクス研究センター(QPEC)の坂野昌人助教、東大大学院 工学系研究科 物理工学専攻の田中佑磨大学院生(研究当時)、QPECの石坂香子教授、東大 生産技術研究所の増渕覚特任准教授、同・町田友樹教授、東京工業大学 科学技術創成研究院の笹川崇男准教授、物質・材料研究機構の谷口尚フェロー、東大大学院 工学系研究科の有田亮太郎教授らの共同研究チームによるもの。詳細は、米国物理学会が刊行する物理とその関連分野を扱う学際的なオープンアクセスジャーナル「Physical Review Research」に掲載された。
炭素原子1個分の厚みしかない単層グラフェンのような2次元物質では、その層数に応じて物性が変化することが知られている。それは、積層方向における「終端」の出現による結晶構造の対称性の低下や閉じ込め効果によって電子構造が変化するためだと考えられている。
しかし、サイズが微小(~0.01mm)な原子層フレーク試料(原子数個分の厚さのシート状試料)の物性研究では、同試料に用いることのできる実験手法が限られているため、主に電気伝導特性による実験結果と、第一原理電子構造計算によるシミュレーション結果を比較することで研究が進められてきたが、それが研究の進展の妨げとなっていたという。
今回の研究の対象であるWTe2も、電気伝導測定によって層数に応じて物性が変化することは知られていたものの、第一原理電子構造計算の入力に必要な結晶構造を実験的に決定するのは困難であり、かつ計算精度の問題もあることから、実験による電子構造の層数依存性の直接観測が望まれていたという。
そこで研究チームは今回、0.01mm程度に集光したレーザー光源を用いて角度分解光電子分光実験を行い、2層~5層WTe2の電子構造を直接観測することにしたという。