国立環境研究所らの研究チームは2022年6月28日、「近い将来に世界複数の地域で過去最大を超える干ばつが常態化することを予測」というタイトルの興味深いプレスリリースを発表した。

数値モデルを用いて河川流量の全球将来予測データを解析し、干ばつが発生する頻度を調査することで、過去最大を超える干ばつが何年も継続して起こる時期を世界で初めて推定したのだ。

では、具体的には、どのような研究結果なのだろうか。今回は、そんな話題について触れたいと思う。

世界で初めてとなる干ばつの未来予測

同発表は、国立環境研究所、東京大学生産技術研究所、東京大学大学院工学系研究科、韓国科学技術院の研究チームによるものだ。数値モデルを用いて、河川流量の全球将来予測データを解析し、干ばつが発生する頻度を調査することで、過去最大を超える干ばつが何年も継続して起こるようになる時期を、2099年まで推定したのだ。

その結果、地中海沿岸域や南米南部など特定の地域では、今世紀の前半もしくは半ばころまでに、過去最大の干ばつを少なくとも5年以上継続して超える時期を迎え、これまでの異常が珍しいものではなくなる可能性が高いことが分かったという。

研究成果は学術雑誌「Nature Communications」に2022年6月28日付で掲載された。

では、国立環境研究所らの研究チームは、なぜこのような研究に取り組んだのだろうか。まず、地球温暖化に伴い、世界の複数の地域で干ばつの激化や高頻度化が危惧されているという背景がある。

干ばつは、水資源、エネルギー、農業などさまざま分野に大きな影響を与えることが予想される。そのため、干ばつに対する対応策を検討するには、いつどれくらい頻発するのかを把握することは重要だ。これまでに、気温や降水量に関しては、過去の観測値を上回るようになる時期を推定した研究事例は多数あるというが、河川など地表の干ばつについては、これまで経験したことのない状態が何年も継続するようになる時期を特定した研究はこれまでにない、世界初となる研究成果だ。

驚くべき研究結果とは?

同研究では、河川の流量に注目。将来の干ばつ日数頻度を調べた。解析には、国立環境研究所らの研究チームを含む研究グループが計算した水文シミュレーションデータセットを用い、1861年から2099年の全球河川流量データを解析した。

可能な限りの温暖化対策を施した場合の脱炭素社会実現シナリオ(RCP2.6)と、CO2排出削減などの温暖化対策を今以上に施さなかった場合の地球温暖化進行シナリオ(RCP8.5)の2種類の温暖化シナリオについて調べ、温暖化対策の選択による結果の違いを評価。その結果が下図だ。

  • 脱炭素社会実現シナリオ(RCP2.6)と地球温暖化進行シナリオ(RCP8.5)における将来の干ばつ日数頻度の比較

    脱炭素社会実現シナリオ(RCP2.6)と地球温暖化進行シナリオ(RCP8.5)における将来の干ばつ日数頻度の比較(出典:国立環境研究所らの研究チーム)

今世紀の半ばころにRCP2.6とRCP8.5のシナリオで、それぞれ全球陸域の25%と28%で干ばつ頻度が増加すると予測され、地域によっては頻度が2倍以上に増加していることがわかった。

また、いずれのシナリオにおいても、地中海沿岸域、南米の南部と中部、オーストラリアなどが干ばつの頻度が増加するホットスポット地域であることも示された。

国立環境研究所の横畠徳太 主幹研究員によると、これらの干ばつが高頻度で起こる場所というのは、基本的には将来降水が減る、蒸発が増えると予測されている地域だという。将来の降水量予測は、将来の水蒸気量の変化、風の変化など複雑な要因に応じて決まっているのだという。

さらに、脱炭素社会の実現(RCP2.6)が未曾有の干ばつ状態の発生確率を低く抑える、もしくはその発生を遅らせている要素となっていることも示されたのだ。

韓国科学技術院 未来戦略大学院の佐藤雄亮 特任准教授によると、まず、大前提として、温暖化がなくても自然変動の中でどんな地域でも干ばつ(通常より水が少ない状況)が発生するということを理解してほしいという。そして、温暖化はその強度や頻度を増強する因子というイメージを持つとよいとした。

つまり、温室効果ガスの削減を進めても、場所によっては未曾有の干ばつ状態の発生が避けられないところが存在してしまうが、温室効果ガスの排出削減を進めた方が、継続的な干ばつの記録超えを迎える時期が遅くなる、もしくは干ばつの継続時間が短くなることが示されたのだ。

  • RCP2.6とRCP8.5のシナリオにおける干ばつ頻度が5年以上連続して過去最大値を超える時期の比較

    RCP2.6とRCP8.5のシナリオにおける干ばつ頻度が5年以上連続して過去最大値を超える時期の比較(出典:国立環境研究所らの研究チーム)

いかがだっただろうか。今回の研究によって、干ばつ発生の時期には大きな地域差があることが示され、また地域によってはその時期が今後30年から50年程度の時間スケールにあるということが予測できたのだ。

研究チームは、干ばつが常態化されてしまうと予想される地域では、効率的かつ迅速に適応策を推し進める必要があるとしている。

国立環境研究所の横畠徳太 主幹研究員は、国内外において、気候変動に対する「適応と緩和」が重要だと述べる。これからもゼロカーボンを実現しても進行する地球温暖化によって生じる影響に備える「適応」としては、作物の品種改良や、水の利用効率を上げる、などの施策が必要で、さらに気候変動を止めるための「緩和」策ももちろん重要だという。

横畠 主幹研究員は、「温室効果ガスの排出が続く限り、気温上昇が進むため、いずれかの時点で、温室効果ガス排出を正味ゼロにしなければ、温暖化を止めることはできない。できるだけ気候変動を早く止めることが、今回の研究結果でも示した通り、さまざまな分野での恩恵をもたらすことになる」と述べている。