今回測定対象とされた有機半導体は、物質・材料研究機構(NIMS)によって開発された、2種類の有機材料を利用することで室温で負性抵抗を示す「アンチアンバイポーラートランジスタ」(AAT)で、従来の有機集積回路の性能を向上させる多値論理回路へ応用できるため、近年注目を集めるようになっているという。

  • 有機トランジスタの概略図

    (a)有機トランジスタの概略図。(b)電流-電圧曲線。(c~e)光電子顕微鏡像。VG=0、3、6V (出所:KEKプレスリリースPDF)

AATは、n型の「PTCDI-C8」とp型の「α-6T」という有機半導体薄膜で構成されている。従来のトランジスタ構造とは異なり、ソース電極とドレイン電極の間に、p型とn型の有機半導体からなる界面があり、ゲート電圧のオン・オフにより、界面に空乏層が構成され、電子の流れが制御される。

これまでの半導体デバイスは、電気特性からその機能が理解されてきたが、今回のオペランド観測によって空乏層の可視化に成功。ゲート電圧(VG)に依存するソース-ドレイン間の電流量では、VG=3Vで電流の最大値を示すことが確認されたとする(負性抵抗)。

また、それぞれの測定点で、光電子顕微鏡像により撮影が行われたところ、撮影された画像からは、ソース電極とドレイン電極の間のコントラストがゲート電圧に依存して変化しているのが見て取れ、それらがトランジスタ内の電子の分布を表すものであることが示されたとする。

さらに、pn界面近傍の電子がその界面に流れ込み、電子密度が低くなることで暗いコントラストの領域が表れたことから、空乏層を介して、電子がn型からp型に流れていることが示されているとした。一方、n型半導体にソース電極から電子が注入された場合は、空乏層が電子の流れを遮蔽するように働いているため、電流は流れないことも確認されたとする。

なお、今回の研究で測定されたAATの特徴的な電圧-電流特性は、精密に材料の組成と組み合わせを設計した結果だというが、今回の技術は、有機材料だけでなく、同様に半導体デバイス設計に自由度がある2次元材料である遷移金属ダイカルコゲナイドへの応用も期待されると研究チームでは説明するほか、パワー半導体動作の直接観測に対しても応用可能で、より効率の高い次世代パワー半導体の開発につながることが期待されるともしている。