東京大学(東大)は6月17日、「分子軌道混成」を強く反映したバンド構造により高移動度を発現する有機半導体を開発したことを発表した。
同成果は、東大大学院 新領域創成科学研究科の岡本敏宏准教授、同・Craig P. Yu特任助教、同・熊谷翔平特任助教、同・竹谷純一教授、筑波大学 数理物質系の石井宏幸准教授らの共同研究チームによるもの。詳細は、米国化学会が刊行する機関学術誌「Journal of the American Chemical Society」に掲載された。
パイ電子系分子が分子間力により集合した固体である有機半導体は、分子間における分子軌道の小さな重なりを介してキャリアが飛び移るホッピング伝導により電気を流す仕組みを持つことから、原子間の共有結合を介したバンド伝導により電気を流すシリコンや金属酸化物などの無機半導体と比べると、移動度の低さが課題とされてきた。しかし、近年になり、共有結合がないにも関わらずバンド伝導を示す高移動度有機半導体が開発されるようになってきており、注目が集まるようになってきた。
有機半導体のキャリア伝導では結晶構造やトランスファー積分が重要な因子とされるが、ホッピング伝導の慣習から、これまではフロンティア軌道間のトランスファー積分だけが注目されてきたという。しかしバンド伝導の理論に立ち返ると、分子から成る有機半導体においてもフロンティア軌道以外の分子軌道もバンド形成に寄与することが考えられるという。
そこで今回の研究では、研究チームがこれまで開発を進めてきたN字型パイ電子系分子「C10-DNBDT」の価電子バンドを見直すことにしたとする。具体的には、強束縛近似および平面波基底の2つの方法でバンド計算を実施。強束縛近似によるバンド計算では、特定の分子軌道間のトランスファー積分だけが考慮されており、p型有機半導体の場合、分子軌道のうちでエネルギーの最も高いHOMO間のトランスファー積分だけを考慮するのが通例となっていた。
一方、平面波基底ではすべての軌道が取り込まれ、より現実的なバンド計算が可能であることから、今回の研究では、強束縛近似にHOMO/SHOMO間やHOMO/THOMO間のトランスファー積分を取り込む(分子軌道混成する)ことで価電子バンドに明瞭な変化が生じるかどうか、さらに平面波基底で得られる価電子バンドとの比較が検証された。