物質・材料研究機構(NIMS)と東京理科大学(理科大)は3月10日、有機トランジスタ「アンチ・アンバイポーラトランジスタ」(AAトランジスタ)をデュアルゲート型トランジスタに拡張し、5つの2入力論理演算回路(AND、OR、NAND、NOR、XOR)を単一トランジスタで実証し、有機トランジスタが実現できていなかった高集積化を既存の方法論とは異なる形で実現することに成功したと発表した。

同成果は、NIMS国際ナノアーキテクトニクス研究拠点 量子デバイス工学グループの早川竜馬主任研究員、同・中払周主幹研究員、同・若山裕グループリーダー、理科大 理工学部物理学科の本間航介大学院生、同・金井要教授らの研究チームによるもの。詳細は、機能性材料に関する化学と物理学を扱う学際的な学術誌「Advanced Materials」に掲載された。

有機トランジスタを集積した有機集積回路は、既存のシリコンベースの微細加工技術が適応できないため、集積度が低いことから、素子の微細化だけに依存しない新たな回路設計指針が求められている。そうした中、研究チームは、有機トランジスタの中でも特殊なAAトランジスタの論理演算素子への応用検討を進めてきたという。

AAトランジスタは、p型とn型の両半導体をチャネル中央部で一部分だけ重ね合わせたpn接合を形成することで、ある一定以上のゲート電圧を印加するとドレイン電流が減少するという特異的な電気特性を示すもので、今回の研究では、複数の論理回路動作を単体素子に担わせる多機能化により、有機集積回路の高性能化に取り組むことにしたという。

既存の集積回路では、p型とn型のトランジスタを1セットで1つの構成単位とし、それらを組み合わせることで論理回路が形成されている。例えばNAND回路なら4個の、XOR回路では12個のトランジスタが必要とされる。より少ないトランジスタ数で回路を実現できれば、素子の集積度を向上させることにつながることから、今回の研究では、有機AAトランジスタをデュアルゲート型トランジスタへと拡張し、2入力論理演算回路へ応用することにしたという。

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    (a)デュアルゲート型AAトランジスタの素子構造図。(b)ドレイン電流-ゲート電圧特性の3次元マッピング (出所:NIMSプレスリリースPDF)

デュアルゲート型トランジスタは、ボトムゲート型トランジスタにトップゲート絶縁膜、さらにトップゲート電極を形成することで作製。ボトムゲート電圧を掃引することで、AAトランジスタに特徴的なΛ型のピークドレイン電流が観測されるが、重要な点は、ボトムゲート電圧により誘起されるドレイン電流のピーク電圧位置をトップゲート電圧により制御できることだという。この特徴を活かして、ボトムゲート電圧を入力電圧1(VIN1)、トップゲート電圧を入力電圧2(VIN2)、ドレイン電流(ID)を出力信号とすることで2入力論理演算回路が実現されたという。

  • 有機半導体

    (a)2入力論理演算素子の等価回路。(b)入力電圧1および2に対する出力信号の2次元マッピング。(c)入力電圧1および2に対するAND回路動作 (出所:NIMSプレスリリースPDF)

VIN1およびVIN2に対する“0”と“1”を定義すると、VIN1およびVIN2がどちらも“1”((VIN1,VIN2)=(1,1))のときにだけ出力信号が“1”となり、AND回路として動作することが示唆され、実際にその通りに機能することが確認されたほか、入力電圧を最適化すれば、OR、NAND、NOR、XOR回路を出力信号の定義を変えることなく実現することも可能だとする。

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    デュアルゲート型トランジスタを利用したOR、NAND、NOR、XOR回路動作 (出所:NIMSプレスリリースPDF)

このような論理回路動作は、単電子トランジスタに代表される量子効果トランジスタを用いてすでに提案されているが、低温領域での素子動作に限られていたという。また、従来のトランジスタでは、ゲート電圧に対してドレイン電流が単調に増加するため、OR/AND、AND/NAND、NOR/NANDのように2つの論理回路しか切り替えられなかったが、今回提案の素子は、これらの課題を克服する新しい技術となると研究チームでは説明する。

なお、研究チームでは、今回開発された素子を活用することで、これまで有機デバイスが苦手としてきた集積回路の高性能化が期待できるとしており、今後は、入力電圧を調整することで種々の論理演算回路を電気的に切り替えられる特徴を活かし、再構成可能コンピューティングへの応用などを考えていくとするほか、今回提案された素子の動作原理を応用することで、より高性能なモバイル端末が実現なども期待できるようになるとしている。